犬の膵炎(急性・慢性)とは|症状・原因・治療・食事管理を獣医師が解説

【獣医師監修】犬の膵炎(急性・慢性)の症状と余命|最新治療から食事・回復期間まで完全ガイド 犬の膵炎

「膵炎と診断された。これからどうすればいいの?」

この記事は、そんな飼い主さんのための膵炎の全体像をつかむための案内板です。

膵炎は怖い病気ですが、正しく理解し、食事管理を続ければ、穏やかに過ごせる犬はたくさんいます。
まずは全体像を把握して、その後は愛犬の状態に合った詳しい記事へ進んでください。

この記事の著者・監修者:Dr.サク(臨床10年以上)
現役の獣医師、都内動物病院に勤務。腎臓病を中心に、食事療法で数多くの犬の健康寿命を延ばしてきた実績を持つ。専門的な医学的知見に基づき、愛犬に本当に必要なフードを厳選しています。

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犬の膵炎とは──5分でわかる全体像

膵臓は、食べ物を消化する酵素と血糖値を調整するホルモン(インスリン)を作る臓器です。
膵炎は、その消化酵素が膵臓の中で活性化してしまい、膵臓自身を「消化」してしまう病気です。

急性膵炎は、ある日突然激しい嘔吐や腹痛で発症します。適切な治療を受ければ回復する例が多い一方、重症化すると命に関わることもあります。
慢性膵炎は、弱い炎症がじわじわと続き、膵臓の組織が少しずつ硬くなっていく(線維化する)状態です。急性膵炎のような劇的な症状が出にくく、気づいたときには進行しているケースもあります。

どちらのタイプでも、食事管理が膵炎の予後を最も大きく左右します。療法食を与えた犬はそうでない犬と比べて生存期間が大幅に延びたという研究報告があり(Pedrinelli V. et al.)、食事は治療の一部そのものです。

膵炎の症状──こんなサインが出たら受診を

膵炎で最も多い症状は、繰り返す嘔吐食欲の低下、そして腹痛です。

腹痛のサインとして有名なのが「祈りのポーズ」——前足を伸ばしてお尻を上げる姿勢です。これは痛むお腹をかばう体勢で、遊びの「プレイバウ」とは表情や持続時間が異なります。詳しい見分け方は祈りのポーズの記事をご覧ください。

こんな症状があったら、すぐ受診してください
  • 何度も繰り返す嘔吐
  • 祈りのポーズ(前足を伸ばしてお尻を上げる)
  • ぐったりして動かない、震えている
  • 丸1日以上食べない

重症の膵炎は命に関わります。「様子を見よう」が手遅れにつながることがあるので、少しでも異変を感じたら早めに動物病院へ連れて行ってください。

膵炎の原因とリスク因子

膵炎の原因は一つに絞れないことが多く、複数の要因が重なって発症します。

  • 高脂肪食:人間の食べ物(揚げ物、肉の脂身、チーズ等)が最大のリスク
  • 肥満:体内の脂質代謝が乱れ、膵臓への負担が増す
  • 犬種:ミニチュア・シュナウザー、トイプードル、コッカー・スパニエルなど
  • 併発疾患:クッシング症候群、甲状腺機能低下症、糖尿病

原因と予防策の詳細は膵炎の原因と予防の記事で解説しています。

膵炎の検査と診断

膵炎の診断は、血液検査・画像検査・臨床症状を組み合わせて総合的に判断します。

  • 膵特異的リパーゼ(Spec cPL):膵炎に最も特異的な血液検査。ただし軽度の膵炎では見逃しもある
  • 超音波(エコー)検査:膵臓の腫れや周囲の炎症を確認
  • CRP(炎症マーカー):炎症の程度と治療効果の判定に有用

リパーゼの数値が高いと言われた場合の対処はリパーゼの数値の読み方の記事で詳しく解説しています。

膵炎の治療──急性期と維持期

膵炎には「これを使えば治る」という特効薬はありません。治療の基本は、体を支えながら膵臓の回復を待つ支持療法です。

  • 輸液(点滴):脱水を補正し、膵臓への血流を維持
  • 制吐剤:嘔吐を止めて体力の消耗を防ぐ
  • 鎮痛剤:膵炎の痛みは非常に強い。痛みの管理は治療の重要な柱

2018年には犬の膵炎に対する世界初の治療薬「ブレンダ(フザプラジブナトリウム水和物)」が日本で承認されました。詳細はブレンダと膵炎治療の記事をご覧ください。
治療費の目安は膵炎の治療費の記事で解説しています。

食事管理──膵炎の予後を最も大きく左右するもの

膵炎の治療で最も大切なのは、退院後の食事管理です。

療法食(低脂肪に設計された専用フード)を与えた犬は、一般食を食べ続けた犬と比べて生存期間が大幅に延びたという研究報告があります(Pedrinelli V. et al.)。食事管理は膵炎の進行を遅らせる最も確実な方法であり、治療の一部そのものです。

食事管理の基本は低脂肪(乾物重量で脂肪10%以下が目安)ですが、具体的なフード選びや脂質の基準は、愛犬の状態によって変わります。

慢性膵炎と長期管理

急性膵炎から回復しても、一度ダメージを受けた膵臓は再発しやすい状態になります。繰り返す膵炎により膵臓の組織が線維化すると、慢性膵炎に移行します。

慢性膵炎は完治しませんが、食事管理を続けることで穏やかに過ごせる犬は多くいます。目指すのは「治す」ではなく「落ち着いた状態を保つ」ことです。

慢性膵炎が長期化すると、膵臓の消化機能が失われる膵外分泌不全(EPI)や、インスリン分泌に影響する糖尿病を併発することがあります。定期的な血液検査で早めに気づくことが大切です。

老犬の慢性膵炎については老犬の慢性膵炎の記事で詳しく解説しています。

膵炎の余命──不安を抱える飼い主さんへ

「膵炎と診断されたら、あとどれくらい生きられるのか」——これは飼い主さんが最も不安に思うことです。

結論から言うと、軽症の急性膵炎で適切な食事管理を続ければ、天寿を全うする犬は少なくありません。慢性膵炎でも、管理を続けることで穏やかな日々を送れる子はたくさんいます。

余命を一律に「○年」と示すことは医学的に正確ではありません。重症度、治療への反応、そして食事管理の継続率によって、予後は大きく変わります。

余命と再発率の詳しいデータは膵炎の余命と再発率の記事をご覧ください。

腎臓病との併発

老犬では、膵炎と腎臓病を同時に抱えているケースが珍しくありません。この場合、膵炎のための「低脂肪」と腎臓病のための「低リン・低たんぱく」という食事制限が矛盾することがあります。

どちらの管理を優先するかは、検査数値を見ている主治医に確認するのが確実です。

よくある質問

Q1. 膵炎は完治しますか?

A. 急性膵炎は適切な治療で回復する例が多いですが、一度ダメージを受けた膵臓は再発しやすくなります。慢性膵炎は完治しませんが、食事管理で「落ち着いた状態」を維持することは可能です。

Q2. 膵炎の犬にささみを与えていいですか?

A. 皮なし・茹でたささみなら少量OK(5kgの犬で1日5〜10g程度)。ただし脂質ゼロではないので毎日大量に与えるのは避けてください。詳しくはささみの記事をご覧ください。

Q3. 膵炎の犬におやつは一生あげられませんか?

A. 市販の高脂肪おやつはNGですが、低脂肪のおやつを少量なら維持期に与えることは可能です。最も安全なのは療法食を数粒、ご褒美として手渡す方法です。詳しくはおやつOK・NGリストの記事をご覧ください。

Q4. 膵炎になりやすい犬種はありますか?

A. ミニチュア・シュナウザーが最も多く、トイプードル、ヨークシャーテリア、コッカー・スパニエル、ミニチュア・ダックスフンドなどでも発症リスクが高いとされています。肥満犬も犬種に関係なくリスクが上がります。

Q5. 膵炎と腎臓病を併発したら食事はどうすればいいですか?

A. 低脂肪(膵炎)と低リン・低たんぱく(腎臓病)の食事制限が矛盾することがあります。どちらを優先するかは検査数値によって変わるため、主治医に相談してください。詳しくは膵炎×腎臓病の食事の記事をご覧ください。

膵炎・低脂肪フードのおすすめランキングを獣医師が脂質で比較しています

まとめ──膵炎は「管理する病気」です

膵炎と診断されても、それは「もう何もできない」という意味ではありません。

  • 低脂肪の食事管理を続ける
  • 人間の食べ物を与えない(家族全員で徹底)
  • 適正体重を維持する
  • 定期的に血液検査で状態を把握する

これを続けることで、多くの犬が穏やかな日々を送れています。
最終的な治療方針は、愛犬の状態を最もよく知っている主治医と一緒に決めてください。この記事が、その相談の材料になれば幸いです。


参考文献

  1. Pedrinelli V, et al. Nutritional and laboratory parameters affect the survival of dogs with chronic kidney disease. J Vet Intern Med.
  2. Steiner JM, et al. Fuzapladib in a randomized controlled multicenter masked study in dogs with presumptive acute onset pancreatitis. J Vet Intern Med. 2023.
  3. Cridge H, et al. New insights into the etiology, risk factors, and pathogenesis of pancreatitis in dogs. J Vet Intern Med. 2022;36(3):847-864.
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