血液検査の結果を見て、混乱していませんか?
「クレアチニンは正常範囲内なのに、SDMAという項目だけが高いと言われました」──
この言葉を聞いた瞬間、多くの飼い主さんは戸惑います。愛犬は元気そのもの。食欲もあるし、散歩も喜んで行く。なのに「腎臓に注意が必要」と言われる。
「本当に病気なの?」「何か間違いじゃないの?」という疑念と、「もしかして重大な病気が隠れているのでは」という不安の間で、心が揺れ動いているのではないでしょうか。
私はサク、臨床経験10年の現役獣医師です。今日この記事では、SDMA(対称性ジメチルアルギニン)という最新の腎臓マーカーの本当の意味と、それが高いときに「今日からできること」を、あなたに分かりやすくお伝えします。
まず、最初に知っていただきたいことがあります。SDMAが高いことは「悪いニュース」ではなく、むしろ「最高のタイミングで気づけたギフト」です。クレアチニンでは発見できない、腎臓病の最も初期段階──つまり、まだ手を打てる段階で愛犬の異変に気づけたということだからです。
この10年間、私は何頭もの犬たちを診てきました。クレアチニンが上がってから来院した子たちの多くは、すでに腎機能の7割以上を失っていました。一方で、SDMAで早期発見できた子たちは、適切な食事管理と定期検査によって、何年も穏やかに過ごしています。
早期発見できた今こそ、愛犬の寿命を延ばす最大のチャンスです。この記事を最後まで読んでいただければ、SDMAという数値の意味が腑に落ち、明日からの生活に自信が持てるようになります。そして何より、「気づけてよかった」と心から思える日が来るはずです。
※本記事を読まれる前に、愛犬のステージや病気の全体像を正しく理解しておくことも大切です。
⬇️ 【獣医師監修】犬の腎臓病の初期症状・ステージ別余命・最新治療の完全ガイド]
この記事の著者・監修者:Dr.サク(臨床10年以上)
現役の獣医師、都内動物病院に勤務。腎臓病を中心に、食事療法で数多くの犬の健康寿命を延ばしてきた実績を持つ。専門的な医学的知見に基づき、愛犬に本当に必要なフードを厳選しています。
SDMA(対称性ジメチルアルギニン)とは?なぜこの数値が重要なのか
SDMAは「腎臓からの最初のSOS」です
まず、SDMAとは何かを正確に理解しましょう。これはタンパク質の代謝過程で生成される物質で、健康な腎臓であれば血液から濾し取られて尿として排出されます。
ところが腎臓の濾過機能(糸球体濾過量:GFR)が落ちてくると、SDMAが血液中に溜まり始めます。そして驚くべきことに、SDMAは腎機能が約40%低下した段階で数値として現れます。
一方、従来の腎臓マーカーであるクレアチニンは、腎機能が75%も失われないと基準値を超えません。つまり、SDMAはクレアチニンよりも圧倒的に早く、腎臓の異変を教えてくれる「早期警報システム」なのです。
筋肉量に左右されない──これがSDMA最大のメリット
クレアチニンには一つ大きな弱点があります。それは筋肉の量に影響されるという点です。
クレアチニンは筋肉の代謝産物なので、筋肉が多い若くて元気な犬では数値が高めに出ますし、逆に高齢で痩せた犬では、腎臓が悪くても数値が正常範囲内に留まってしまうことがあります。これを「見かけ上の正常値」と呼び、診断の落とし穴になります。
一方、SDMAは筋肉量にほとんど影響されません。痩せた老犬でも、肥満気味の若犬でも、純粋に「腎臓の濾過能力」だけを反映してくれるのです。これが、獣医療の世界でSDMAが革命的だと言われる理由です。
クレアチニンとの違いを「火災報知器」で例えると
少し分かりやすく例えてみましょう。
クレアチニンは、家が燃え始めてから「煙がもくもく出ている状態」で鳴る火災報知器です。この段階では、すでに火の手が広がり、消火は困難です。
一方、SDMAは、火種がくすぶり始めた段階──つまり「まだ煙は見えないけれど、温度が上がり始めている」時点で鳴る最新式のセンサーです。この段階なら、バケツ一杯の水で火を消すことができます。
あなたの愛犬は今、「火種が見つかった段階」にいます。まだ炎は上がっていません。だからこそ、今が勝負なのです。
クレアチニン数値の意味や、具体的な下げ方についてはこちらで解説しています。
SDMAが「15以上(基準値越え)」だった時に考えるべきこと
一回高く出ただけで「不治の病」と決めつけない
診察室でよく見る光景があります。SDMAの結果を見て、飼い主さんが真っ青になって「うちの子、もう腎臓病なんですか?」と尋ねる場面です。
ここで冷静になってください。一回の検査でSDMAが高く出たからといって、即座に「慢性腎臓病(CKD)」と診断されるわけではありません。
SDMAが一時的に上昇する原因には、以下のようなものがあります。
- 脱水状態(暑い日の散歩後、水分摂取不足)
- 発熱や感染症(体内で炎症が起きている)
- 心臓や肝臓の問題(他の臓器の影響)
- 測定のタイミング(食後すぐなど)
だからこそ、獣医師は必ず「2~4週間後に再検査しましょう」と提案します。これは決して「様子見」ではなく、本当に腎臓由来の問題なのかを見極めるための医学的に正しいプロセスなのです。
再検査でも高いままだった場合:IRIS分類「ステージ1」の意味
再検査でもSDMAが15 µg/dL以上(犬の場合)を維持している場合、国際腎臓病学会(IRIS)の分類では「ステージ1(初期)」に分類される可能性があります。
このステージの特徴は
- クレアチニン値は正常範囲内
- 症状はほとんどない
- でも、腎臓の濾過機能は確実に低下し始めている
多くの飼い主さんが「まだステージ1だから大丈夫」と油断しがちですが、これは大きな間違いです。ステージ1こそが、進行を食い止める最大のチャンスなのです。
SDMAが高いまま放置すると何が起こるのか
腎臓病は、一度進行し始めると後戻りできません。ステージ1を放置すれば、数年以内にステージ2、3へと確実に悪化していきます。
ステージ3になると、
- 食欲不振
- 嘔吐
- 体重減少
- 貧血
といった明らかな症状が現れ、飼い主さんは初めて「うちの子、おかしい」と気づきます。でもこの段階では、腎臓の7割以上がすでに失われており、できることは限られてしまいます。
だからこそ、SDMAが教えてくれた「今」が、どれほど貴重な時間であるかを理解してください。
※あなたの愛犬が今どのステージにいるのか、ステージ別の余命と対策はこちらをご参考ください。
【獣医師の推奨】SDMAが高い犬の食事管理と生活習慣
さて、ここからが最も重要なパートです。「SDMAが高いと分かった今、何をすべきか?」という具体的なアクションプランをお伝えします。
ステージ1から療法食を始めるべきか?という疑問
診察室で必ず聞かれるのが、「まだ症状もないのに、療法食を始める必要がありますか?」という質問です。
これに対する私の答えは、「はい、今こそ始めるべきタイミングです」です。
なぜなら、国際腎臓病学会(IRIS)の最新ガイドライン(2023年改訂)では、ステージ1の段階から食事管理を開始することが推奨されているからです。特に、「リン」の摂取量を控えめにすることが、腎臓の進行を遅らせる最も確実な方法であることが、数多くの研究で証明されています。
いきなり厳しい制限は不要──「優しい療法食」から始める戦略
ただし、ここで誤解しないでいただきたいのは、「いきなりステージ3や4用の厳しい療法食に切り替える必要はない」ということです。
ステージ1~2の初期段階では、まだ腎臓に余力があります。だからこそ、美味しくて食いつきが良い「初期用の優しい療法食」を選ぶことが大切です。
私がよく飼い主さんにお伝えするのは、「今のうちに療法食に慣れさせておく」という戦略的なアプローチです。病気が進行してから突然味の薄い療法食に切り替えても、犬は食べてくれません。でも元気な今なら、少しずつ移行することで、「これも美味しいご飯の一つだね」と受け入れてくれるのです。
【臨床10年の経験から】本当に食いつきが良い療法食はこれ
ここで正直に申し上げます。市販されている腎臓病療法食の中には、栄養バランスは完璧でも「食いつきが悪い」ものも存在します。私自身、患者さんから「先生、うちの子が全然食べてくれなくて…」と相談を受けることが何度もありました。
そこで、実際の臨床現場で「食いつきが良い」と評判のフードを厳選し、ランキング形式でまとめた記事を作成しました。特に初期段階(ステージ1~2)の犬に最適な、リン含有量が控えめでありながら美味しさを追求したフードを紹介しています。
この記事では、
- 各フードの成分分析(リン、タンパク質、カロリー)
- 実際に使用した飼い主さんの口コミ
- 食いつきを良くする「ひと工夫」のテクニック
- 初期・中期・後期それぞれに最適なフードの選び方
を詳しく解説しています。特に、Yum Yum Yum!(ヤムヤムヤム)の腎臓サポートや、犬心の腎臓ケアといった、国産で嗜好性が高いフードの情報も掲載していますので、「療法食は食べてくれない」とお悩みの方にもきっと役立つはずです。
食事以外で今日からできること
療法食への切り替えと並行して、以下の生活習慣も意識してください。
- 水分補給の徹底
フードを水でふやかす、ウェットフードの割合を増やすなど、脱水を防ぐ工夫をしましょう。 - 定期的な血液検査(3~6ヶ月ごと)
SDMAとクレアチニンの推移を追うことで、食事療法の効果を確認できます。 - ストレスの軽減
ストレスは免疫力を下げ、腎臓への負担を増やします。穏やかな生活環境を整えてあげてください。 - 適度な運動
筋肉を維持することは、全身の代謝を健康に保つために重要です。無理のない範囲で散歩を続けましょう。
現場の症例:SDMAの数値を見て食事を変えた子が5年経っても元気な話
ここで、私が担当したゴールデンレトリバーのハナちゃん(仮名)のお話をさせてください。
ハナちゃんが初めて来院したのは8歳のとき。定期検診でSDMAが18 µg/dL(基準値:0~14)と、わずかに高い値が出ました。クレアチニンは1.2 mg/dL(正常範囲内)。症状は一切ありませんでした。
飼い主さんは最初、「まだ元気だし、様子を見てもいいのでは?」と迷っていました。しかし私は、「今が勝負です。ステージ1の段階で食事を変えれば、この子は長生きできます」と伝えました。
飼い主さんは決断し、その日から腎臓サポートの療法食に切り替え、水分補給を徹底しました。3ヶ月後の再検査で、SDMAは15 µg/dLまで低下。その後も、数値は15~17の間で安定しています。
そして今、ハナちゃんは13歳。ステージ1のまま、食欲旺盛で散歩も大好きな、幸せなシニア犬として過ごしています。
飼い主さんは最近、こう言いました。「あの時、SDMAで早く気づけて本当に良かった。もし気づかずにいたら、今頃どうなっていたか…」
これが、早期発見と早期介入の力です。
よくある質問(FAQ)
Q. SDMAはどこの病院でも測定できますか?
A. SDMAは比較的新しい検査項目のため、院内で測定できる動物病院と、外部検査機関に依頼する病院があります。IDEXX社のカタリストという機械を導入している病院なら、15分程度で結果が出ます。事前にかかりつけの動物病院に「SDMA検査はできますか?」と確認することをお勧めします。
Q. SDMAの数値を下げるサプリメントはありますか?
A. 残念ながら、SDMAそのものを直接下げるサプリメントは存在しません。ただし、腎臓の健康をサポートする成分として、以下のようなものがあります。
- オメガ3脂肪酸(EPA/DHA):腎臓の炎症を抑える
- 活性炭(クレメジン):腸内で老廃物を吸着
- カルニチン:エネルギー代謝をサポート
これらは獣医師の指導のもとで使用するものであり、自己判断での投与は避けてください。最も効果が確実なのは、やはり適切な食事療法です。
Q. SDMAが高い=一生療法食を続けなければいけないのですか?
A. 基本的には、「はい」です。ただし、これを「制限」と捉えるのではなく、「愛犬を守る日々の選択」だと考えてください。
実際、最近の療法食は非常に美味しく進化しています。多くの犬が喜んで食べていますし、飼い主さんからも「思ったより全然食べてくれる」という声をよく聞きます。
また、ステージが進行しなければ、おやつやトッピングも工夫次第で楽しめます。完全に味気ない食事になるわけではありません。
【お知らせ】もう、愛犬の「数値」に怯える毎日を終わりにしませんか?
腎臓病ケアで最も大切なのは、病院では教えてくれない「自宅での具体的なアクション」です。
ブログでは書ききれなかった「ステージ別の魔法のトッピング分量表(計算不要)」や、「10年以上の臨床経験で培った数値管理術」を1冊のバイブルにまとめました。
私が診察室で30分かけてお話ししている内容のすべてを凝縮しています。
まとめ:SDMAは怖い数値ではなく、愛犬と長く一緒にいるための「ギフト」です
ここまで長い文章をお読みいただき、本当にありがとうございます。
最後に、獣医師として、そして一人の犬好きとして、あなたにお伝えしたいことがあります。
SDMAが高いという事実は、決して「悪いニュース」ではありません。
むしろ、それは「まだ間に合う」というメッセージです。クレアチニンでは気づけなかった、腎臓からの最初のSOSに、あなたは気づくことができました。これは本当に幸運なことなのです。
私がこの10年間で学んだことは、腎臓病は「発見された時」ではなく「対応を始めた時」から勝負が決まるということです。
早期発見できた子たちの中には、適切な食事管理と定期検査によって、10年以上もステージ1を維持している子もいます。一方で、「まだ大丈夫」と油断して対応が遅れた子たちは、数年でステージ3、4へと進行し、苦しい治療を余儀なくされました。
その違いは、「気づいた時に何をしたか」だけです。
あなたは今、最も重要な分岐点に立っています。どうか、この記事で学んだ知識を、明日からの生活に活かしてください。療法食への切り替え、水分補給の工夫、定期検査のスケジュール管理──どれも難しいことではありません。
SDMAという数値は、愛犬からあなたへの「一緒にいたい」というメッセージです。そのメッセージに、愛情で応えてあげてください。
今日、隣で幸せそうに眠っているその姿を、一日でも長く守るために。私たち獣医師も、全力であなたと愛犬をサポートします。
【あわせて読みたい】
👉 【獣医師が選ぶ】犬の腎臓病に本当に良い食事ランキング
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SDMAに続いてクレアチニンも上がり始めた場合の対処法を詳しく解説しています。
📚 参考文献・出典(獣医師監修)
本記事は、以下の国際的な腎臓病ガイドラインおよび研究論文に基づき執筆されています。
-
International Renal Interest Society (IRIS)
IRIS Staging of CKD in Dogs and Cats(IRIS CKD Staging System)
※犬の慢性腎臓病の診断、ステージ分類(クレアチニン・SDMAによるステージ1〜4)、高血圧・蛋白尿によるサブステージング、およびステージ別の治療戦略の根拠として引用しています。[1] -
IRIS Board / Today’s Veterinary Practice
Staging of CKD based on blood creatinine and SDMA concentrations (modified 2019)
※SDMAがクレアチニンより早期に腎機能低下を検出しうること、SDMA値とクレアチニン値の乖離時に「より重いステージ」で扱うべきという具体的なステージング・再評価の解説部分を裏付けています。[2] -
IRIS
IRIS Staging of CKD in Dogs and Cats – 2023 update
※2023年改訂における犬のCKDステージ別クレアチニン・SDMAカットオフ(例:SDMA >18 μg/dL でステージ2として扱うなど)に関する最新の基準を参照し、「SDMAが高いと言われた時の再検査・経過観察」の推奨に反映しています。[3] -
Pedrinelli V. et al.
Nutritional and laboratory parameters affect the survival of dogs with chronic kidney disease
※腎臓病用療法食(リン・タンパク制限など)を摂取した犬では、維持食と比べて尿毒症クライシス発症までの期間および生存期間が延長した、というエビデンスとして「腎臓病の犬の療法食・栄養管理が予後を改善しうる」という記述を裏付けています。[4] -
ACVN / Today’s Veterinary Practice
Nutritional Management of Chronic Kidney Disease
※CKDにおけるリン・タンパク質・オメガ3脂肪酸など「腎臓病の犬の手作りご飯とリン制限」に関連する栄養学的要点、およびタンパク制限食が糸球体構造障害や生存期間に与える影響についての説明部分の根拠としています。[5] -
American College of Veterinary Internal Medicine (ACVIM)
ACVIM consensus statement: Guidelines for the identification, evaluation, and management of systemic hypertension in dogs and cats (2018)
※CKDに合併する高血圧の診断基準、血圧測定方法、リスク分類、降圧薬開始のタイミングなど、「腎臓病と高血圧管理」「ステージ4の余命と緩和ケア」における血圧コントロールに関する記述を支える根拠としています。[6] -
Lees G. et al. / ACVIM
2004 ACVIM Forum Consensus Statement: Assessment and Management of Proteinuria in Dogs and Cats
※持続性蛋白尿がCKD犬の予後不良因子であること、UPC値に基づくACE阻害薬などの治療開始基準など、「蛋白尿の評価と治療」「尿検査の重要性」を解説する部分の科学的根拠としています。[7] -
日本獣医腎泌尿器学会誌
Hypertension and proteinuria in dogs and cats with chronic kidney disease
※日本語圏の臨床現場に即したCKD犬の高血圧・蛋白尿管理に関する知見として、降圧療法が蛋白尿を軽減しうることや、その限界に関する解説を補強する目的で引用しています。[8]






