血液検査の結果を見て、手が震えていませんか?
「クレアチニン(Cre)が高いですね」──獣医師のその一言で、頭の中が真っ白になった飼い主さんを、私はこの10年間で何百人と見てきました。
帰宅後にスマホで検索して、「腎機能の75%が失われている」「元には戻らない」という情報を目にして、愛犬を抱きしめながら涙を流す。そんな夜を過ごしていらっしゃるのではないでしょうか。
私はサク、臨床経験10年の現役獣医師です。今日この記事では、クレアチニンという数値の「本当の意味」と、それを「これ以上上げない」ための具体的な食事戦略をお伝えします。
まず、あなたに知っていただきたいことがあります。クレアチニンの数値が高いことは「終わり」ではありません。正しい知識と食事管理によって、多くの犬たちが数値が高いまま、穏やかで幸せな日々を何年も過ごしています。数値に一喜一憂するのではなく、「今日からできること」に目を向けましょう。
この記事を最後まで読んでいただければ、明日からの食事選びに自信が持てるようになります。そして何より、愛犬との残された時間を、不安ではなく愛情で満たすことができるはずです。
※本記事を読まれる前に、愛犬のステージや病気の全体像を正しく理解しておくことも大切です。
⬇️ 【獣医師監修】犬の腎臓病の初期症状・ステージ別余命・最新治療の完全ガイド]
この記事の著者・監修者:Dr.サク(臨床10年)
現役の獣医師、都内動物病院に勤務。腎臓病を中心に、食事療法で数多くの犬の健康寿命を延ばしてきた実績を持つ。専門的な医学的知見に基づき、愛犬に本当に必要なフードを厳選しています。
クレアチニン(Cre)とは?数値が高いことの本当の意味
クレアチニンは「筋肉の老廃物」です
まず、クレアチニンとは何かを正確に理解しましょう。これは筋肉を動かすときに出る老廃物(ゴミ)です。健康な腎臓は、このゴミを血液から濾し取って尿として排出してくれます。
ところが腎臓の機能が落ちると、このゴミが血液中に溜まり始めます。血液検査で測定されるクレアチニン値は、まさにこの「溜まり具合」を示しているのです。
ちなみに、クレアチニンと並んで健康診断でよく指摘される数値に「BUN(尿素窒素)」があります。BUNは筋肉ではなく「食事(タンパク質)」の影響を強く受ける数値です。
もし、クレアチニンだけでなくBUNも高い場合、あるいはBUNだけが異常に高い場合は、以下の記事も必ずチェックしておいてください。
⬇️ 【獣医師解説】犬のBUN(尿素窒素)が高い原因は?数値だけ見て焦る前に確認すべきこと
なぜ「75%失われている」と言われるのか
診察室でよく聞かれるのが、「なぜ数値が上がったときには、もう7割も腎臓が壊れているんですか?」という質問です。
これには理由があります。腎臓には「予備能力」という素晴らしい特性があります。100あるネフロン(腎臓の濾過ユニット)のうち、30だけでも働いていれば、クレアチニンをある程度は処理できてしまうのです。
例えるなら、100台のレジがあるスーパーで、70台が故障しても、残り30台がフル回転すれば何とか営業できる状態。でも、そこからさらに1台でも壊れると、一気に行列ができ始める──それが「数値として現れる瞬間」なのです。
つまり、数値が正常範囲を超えたということは、すでに腎臓の余力がかなり削られている証拠だということです。
クレアチニンが上がる(75%消失)前に、火種を見つけることができるのが「SDMA」です。クレアチニンが正常でもSDMAが高いという「逆転現象」にどう対応すべきか、獣医師の視点でまとめました。
「数値が下がりにくい」理由と、それでもケアすべき理由
ここが一番辛いところですが、一度壊れた腎臓の組織は、基本的に元には戻りません。これは肝臓のように再生する臓器ではないからです。
だからクレアチニン値も、劇的に下がることは稀です。むしろ「現状維持」や「ゆるやかな上昇」が目標になります。
でも、だからこそ「これ以上悪化させない」ことに全力を注ぐ価値があるのです。残された30%のネフロンを大切に守り、できるだけ長く働いてもらう。それが私たち獣医師と飼い主さんが協力して目指すゴールです。
※あなたの愛犬が今どのステージにいるのか、ステージ別の余命と対策はこちらをご参考ください。
クレアチニンの数値を「これ以上上げない」ための3つの柱
慢性腎臓病(CKD)のケアには、3つの重要な柱があります。この3つを同時に実践することで、愛犬の生活の質(QOL)を維持し、数値の急激な悪化を防ぐことができます。
①【水分補給】脱水を防ぎ、残ったネフロンを助ける
腎臓病の犬は、尿を濃縮する力が弱くなっているため、常に脱水のリスクにさらされています。脱水すると血液がドロドロになり、腎臓への血流が悪化。残ったネフロンにさらなる負担がかかります。
具体的な対策:
- フードを水でふやかす
- ウェットフードの割合を増やす
- 鶏ささみの茹で汁(薄味)をフードにかける
- 水飲み場を複数設置し、いつでも新鮮な水を飲めるようにする
「うちの子、あまり水を飲まないんです」という相談をよく受けますが、無理に飲ませる必要はありません。食事から水分を摂る工夫の方が、ストレスなく続けられます。
②【食事管理】リンとタンパク質の制限が「絶対」である理由
ここが最も重要なポイントです。腎臓病の食事療法で特に意識すべきは「リン」と「タンパク質」の2つです。
なぜリンを制限するのか?
リンは骨の材料として必要なミネラルですが、腎臓が弱ると排泄できず体内に蓄積します。すると血液中のリン濃度が上がり、腎臓の組織がさらに硬く(線維化)なってしまうのです。これが「腎臓を悪化させる悪循環」を生みます。
また、高リン血症は食欲不振や吐き気の原因にもなります。つまり、リンを制限することは、腎臓を守るだけでなく、愛犬の「食べる意欲」を保つためにも不可欠なのです。
タンパク質は「質」が大事
「タンパク質を減らせばいいんですね」と単純に考える飼い主さんもいますが、これは半分正解で半分不正解です。
確かに、タンパク質の代謝産物(尿素窒素など)は腎臓に負担をかけます。しかし、犬は本来肉食動物。タンパク質をゼロにすれば筋肉が痩せ、免疫力も低下します。
大切なのは「量を適度に減らし、質の高いタンパク質を選ぶ」こと。消化吸収が良く、老廃物が少ない良質なタンパク源(卵白、鶏ささみ、白身魚など)を選ぶことで、筋肉を維持しながら腎臓への負担を最小限にできます。
質の低いタンパク質を多く摂ると、BUNの数値が急上昇し、愛犬の吐き気や体調不良を招きます。BUN数値を食事でどうコントロールすべきか、具体的な食材リストなどは以下の記事にまとめています。
関連記事: 犬のBUN数値を下げるための食事管理ガイド|脱水との関係も解説
③【吸着剤と薬】レンジアレンやカリナール、血圧の薬などの役割
食事だけではコントロールしきれない部分を、薬やサプリメントで補います。
- レンジアレン(クレメジン):腸内で老廃物を吸着し、便として排出させる
- カリナール:腎臓の線維化を遅らせる作用が期待される
- 降圧薬(ACE阻害薬など):腎臓内の血圧を下げ、ネフロンへの負担を軽減
これらは獣医師の診断のもとで処方されるものです。「ネットで評判がいいから」と自己判断で与えるのは危険です。必ず動物病院で相談してください。
獣医師が教える、クレアチニン対策の「食べ物」と「選び方」
それでは、具体的に「何を食べさせるか」「何を避けるか」を整理しましょう。
絶対に避けるべき「高リン食材」リスト
以下の食材は、リン含有量が非常に高いため、腎臓病の犬には与えないでください。
- 乳製品(チーズ、ヨーグルト、牛乳)
- 煮干し、小魚
- レバー
- 肉の脂身や骨付き肉
- ナッツ類
- 加工肉(ソーセージ、ハムなど)
「ちょっとだけなら…」という気持ちはよく分かります。でも、腎臓病において「ちょっと」の積み重ねが命取りになることを、私は何度も目の当たりにしてきました。心を鬼にして、これらの食材は完全に断つことをお勧めします。
積極的に摂りたい「低リン・高エネルギー」な補助食
腎臓病の犬は食欲が落ちやすいため、少量でもエネルギーを確保できる食材が理想です。
- 白米のおかゆ(消化が良く、リンが少ない)
- さつまいも(エネルギー源として優秀)
- 鶏ささみ(茹でて、茹で汁は捨てる)
- 白身魚(タラ、タイなど)
- 卵白(黄身はリンが多いので避ける)
ただし、これらを使った手作り食は栄養バランスの計算が非常に難しいです。カロリー不足や、逆にリン過多になるリスクもあります。
腎臓病専用の療法食が「最強の選択肢」である理由
ここで正直に申し上げます。私が最も推奨するのは、動物病院で処方される腎臓病専用の療法食です。
なぜなら、これらは獣医栄養学の専門家が何年もかけて開発した、リン・タンパク質・ナトリウムが完璧に調整された食事だからです。ロイヤルカナンの「腎臓サポート」、ヒルズの「k/d」、JPスタイルの「腎臓の健康維持」などがこれに当たります。
もしあなたが「うちの子、療法食を食べてくれない」と悩んでいるなら、ぜひ一度、犬の腎臓病に最適な食事ランキングをまとめた記事をご覧ください。食いつきを良くする工夫や、おすすめの療法食ブランドを詳しく比較しています。
👉 【獣医師監修】犬の腎臓病フードおすすめランキング|嗜好性・栄養バランスで徹底比較
私の診察室での実話:クレアチニンが高いまま5年元気に過ごした柴犬の話
ここで、私が担当した一頭の柴犬、コタロウくん(仮名)のお話をさせてください。
コタロウくんが初めて来院したのは10歳のとき。定期検診でクレアチニン値が2.8mg/dL(正常値は0.5~1.5程度)と、基準値を大きく超えていました。飼い主さんは泣きながら「あとどれくらい生きられますか?」と尋ねました。
私は正直に答えました。「余命は誰にも分かりません。でも、今日から一緒に頑張れば、穏やかな日々を長く過ごせる可能性は十分にあります」と。
その日から、飼い主さんは徹底的に食事管理を始めました。療法食への切り替え、水分補給の工夫、定期的な血液検査。クレアチニン値は下がることはありませんでしたが、3.0前後で安定し、コタロウくんは15歳まで生きました。
最期の日まで、散歩を楽しみ、飼い主さんの膝で眠る穏やかな時間を過ごしました。数値が高いことは「終わり」ではない。それを教えてくれた子でした。
よくある質問(FAQ)
Q. 運動は制限すべき?
A. 激しい運動は避けるべきですが、適度な散歩は続けてください。運動不足は筋肉の衰えや肥満につながり、かえって腎臓に負担をかけます。愛犬のペースに合わせた短時間の散歩(10~15分程度)は、QOL維持にも重要です。
Q. 数値が下がったのは治ったということ?
A. 残念ながら、一時的に数値が下がっても「治った」わけではありません。脱水が改善されたり、食事療法の効果で一時的に下がることはありますが、腎臓の組織自体が回復したわけではないのです。油断せず、継続的なケアを続けてください。
Q. ステージごとの目標数値は?
A. 国際腎臓病学会(IRIS)の分類では、クレアチニン値によって4つのステージに分かれます。
- ステージ1:1.4mg/dL未満
- ステージ2:1.4~2.0mg/dL
- ステージ3:2.1~5.0mg/dL
- ステージ4:5.0mg/dL以上
目標は「現在のステージを維持すること」です。ステージ2の子がステージ1に戻ることは稀ですが、ステージ3に進行させないことは十分可能です。
まとめ:数値は愛犬の全てではありません
ここまで長い文章をお読みいただき、本当にありがとうございます。
最後に、獣医師として、そして一人の犬好きとして、あなたにお伝えしたいことがあります。
クレアチニンの数値は、愛犬の全てを表す指標ではありません。
確かに、数値は病気の進行度を知る大切な情報です。でも、それ以上に大切なのは、「今日、愛犬がどんな表情をしているか」「ご飯を美味しそうに食べているか」「あなたのそばで安心して眠っているか」ということです。
数値に一喜一憂する日々は、本当に辛いと思います。でも、どうか数字だけを見て絶望しないでください。あなたの愛情と正しいケアがあれば、愛犬は「病気を抱えながらも幸せに生きる」ことができます。
今日この記事で学んだ知識を、明日からの食事に活かしてください。そして分からないこと、不安なことがあれば、遠慮なくかかりつけの獣医師に相談してください。私たちは、あなたと愛犬のチームの一員です。
今日、隣で笑ってくれているその姿が、一番の宝物です。その時間を一日でも長く守るために、一緒に頑張りましょう。
【あわせて読みたい】
👉 【獣医師監修】犬の腎臓病フードおすすめランキング|嗜好性・栄養バランスで徹底比較
食いつき抜群で、リン・タンパク質が完璧に調整された療法食を徹底比較。あなたの愛犬に合う一品が必ず見つかります。






