「朝から愛犬が何度も吐いている…」
「お腹を痛そうにして、いつもと違う姿勢をとっている…」
もしこんな症状が見られたら、それは犬の膵炎かもしれません。
膵炎は、放置すれば命に関わる重大な病気です。しかし、正しい知識と早期の治療によって、多くの犬が回復し、元気な日常を取り戻しています。
この記事では、臨床現場で数多くの膵炎症例を診てきた獣医師の視点から、最新のエビデンスに基づいた膵炎の全てをお伝えします。昔は「常識」とされていた治療法が、実は今では推奨されていないこともあります。
愛犬の命を守るために、飼い主さんが知っておくべき情報を、専門用語をできるだけ避けて分かりやすく解説していきます。
この記事の著者・監修者:Dr.サク(臨床10年以上)
現役の獣医師、都内動物病院に勤務。腎臓病を中心に、食事療法で数多くの犬の健康寿命を延ばしてきた実績を持つ。専門的な医学的知見に基づき、愛犬に本当に必要なフードを厳選しています。
犬の膵炎とは?なぜこんなにも怖い病気なのか
膵臓が自分自身を「溶かす」メカニズム
膵炎とは、膵臓が自分自身を消化してしまう病気です。
通常、膵臓は食べ物を消化するための強力な消化酵素を作り出しています。これらの酵素は本来、腸に届いてから初めて「活性化」し、食べ物を分解する仕組みになっています。
ところが、何らかの原因でこの安全装置が壊れると、膵臓の中で消化酵素が暴走してしまいます。すると膵臓が自分自身を溶かし始め、強烈な炎症が起こるのです。これが「膵炎」の正体です。
急性膵炎と慢性膵炎の違い
犬の膵炎には、大きく分けて2つのタイプがあります。
急性膵炎は、突然発症し、激しい症状が現れます。嘔吐、激しい腹痛、元気消失などが特徴で、緊急入院が必要になることも少なくありません。適切な治療を受けられれば回復する可能性は高いですが、重症化すると死亡率が高くなる恐ろしい病気です。
一方、慢性膵炎は、膵臓にジワジワとダメージが蓄積していく病態です。時々調子が悪くなったり、食欲がなくなったりする程度で、飼い主さんが気づきにくいのが特徴です。しかし放置すると、膵臓の機能が徐々に失われ、糖尿病や膵外分泌不全(EPI)といった深刻な合併症を引き起こします。
慢性膵炎は「治らない」と言われることもありますが、これは膵臓のダメージが完全には元に戻らないという意味です。適切な食事管理と定期的なチェックによって、症状をコントロールし、愛犬が快適に暮らすことは十分に可能です。
全身に広がる炎症の恐怖:死亡率と余命について
膵炎が本当に怖いのは、炎症が膵臓だけにとどまらないという点です。
重症の急性膵炎では、炎症を引き起こす物質が血液を通じて全身に広がります。これが「全身性炎症反応症候群(SIRS)」という状態で、体温調節ができなくなったり、血圧が下がったり、呼吸が乱れたりします。
さらに進行すると、肝臓、腎臓、肺、心臓など複数の臓器が同時にダメージを受ける「多臓器不全(MODS)」に至ることもあります。この段階になると、集中治療を行っても命を救えないケースが増え、死亡率は大幅に上昇します。
軽度から中等度の急性膵炎であれば、適切な治療により90%以上が回復します。しかし重症例の死亡率は20〜40%にも達するというデータがあります。
慢性膵炎の場合、余命に直接影響するというよりは、糖尿病やEPIなどの合併症が生活の質(QOL)や寿命に関わってきます。ただし、適切に管理されている犬は、膵炎のない犬と変わらない寿命を全うすることも珍しくありません。
つまり、早期発見・早期治療が生死を分けるのが膵炎なのです。
見逃してはいけない!犬の膵炎の初期症状
膵炎の症状は、他の消化器疾患と似ているため見逃されがちです。しかし、以下のような症状が見られたら、すぐに動物病院を受診してください。
最も多い症状:嘔吐と食欲不振
膵炎の犬の約80〜90%に嘔吐が見られます。
特徴的なのは、「何度も繰り返す」「黄色い胃液や泡を吐く」「食べた直後に吐く」といったパターンです。一度や二度ではなく、数時間のうちに何度も嘔吐する場合は要注意です。
また、いつもは喜んで食べるごはんやおやつに全く興味を示さなくなるのも典型的なサインです。「昨日まで元気だったのに、今朝から急に食べなくなった」という急激な変化があれば、膵炎を疑う必要があります。
激しい腹痛のサイン:「祈りのポーズ」に注目
膵炎の犬が見せる最も特徴的な症状が、「祈りのポーズ」です。
これは、前足を伸ばして胸を床につけ、お尻を高く上げた姿勢のこと。遊びの時の「プレイバウ」に似ていますが、表情が辛そうで、尻尾を振ることもありません。
この姿勢は、お腹の上部(膵臓がある場所)が激しく痛むため、少しでも痛みを和らげようと本能的にとる体勢なのです。背中を丸めて動きたがらない、お腹を触られるのを極端に嫌がる、といった様子も見られます。
その他の重要な症状
- 下痢:水っぽい便や、脂肪が混ざった白っぽい便が出ることがあります。
- 血便:腸にも炎症が広がると、血の混じった便が出ることも。
- 震え:痛みや吐き気、体温変化によって体が震えます。
- 元気消失:ぐったりして動こうとしない、散歩に行きたがらない。
- 脱水:嘔吐や下痢により、歯茎が乾燥したり、皮膚の張りがなくなったりします。
自宅でできる簡易チェックリスト
以下の項目に当てはまるものが3つ以上あれば、すぐに動物病院へ連絡してください。
□ 24時間以内に3回以上嘔吐した
□ 食欲が全くない、または激減した
□ お腹を痛そうにして、祈りのポーズをとる
□ 背中を丸めて動きたがらない
□ 下痢や血便が出ている
□ 体が震えている
□ ぐったりして元気がない
□ 高脂肪の食べ物を食べた直後である
膵炎は時間との勝負です。「様子を見よう」と判断を遅らせることで、治療が難しくなるケースが少なくありません。
▼ 【写真で解説】激痛のサイン「祈りのポーズ」とは?
膵炎の原因となりやすい犬種と危険因子
なぜ膵炎が起こるのか?主な原因
犬の膵炎には、さまざまな原因が考えられますが、最も多いのが高脂肪食の摂取です。
クリスマスやお正月など、人間の食べ物を「ちょっとだけ」とあげてしまったり、ゴミ箱をあさって揚げ物や肉の脂身を食べてしまったり(いわゆる「盗み食い」)することで、膵炎を発症するケースが非常に多いのです。
その他の原因としては:
- 肥満:脂肪組織が多いと、血中の脂質濃度が高くなりやすい
- 高脂血症:遺伝的に血液中の脂肪が高い犬種がいる
- ホルモン疾患:甲状腺機能低下症やクッシング症候群など
- 薬剤:一部のステロイドや利尿剤
- 外傷:交通事故などでお腹を強打した場合
- 感染症や他の病気:腸炎や胆管の病気から波及することも
ただし、原因が特定できない「特発性膵炎」も少なくありません。これは、遺伝的な要因や体質が関係していると考えられています。
膵炎になりやすい犬種
ミニチュア・シュナウザーは、遺伝的に高脂血症になりやすく、慢性膵炎のリスクが非常に高い犬種として知られています。
その他、以下の犬種も膵炎の好発犬種とされています:
- ヨークシャー・テリア
- コッカー・スパニエル(特にアメリカン・コッカー)
- ミニチュア・プードル
- ダックスフンド
- ボクサー
また、中高齢の犬(7歳以上)や、避妊・去勢をしていないメス犬もリスクが高いとされています。
これらの犬種を飼っている方は、特に食事管理と定期的な健康チェックが重要です。
病院での検査と診断方法:早期発見が命を救う
膵炎の診断に使われる検査
膵炎は症状だけでは確定診断できません。以下のような検査を組み合わせて総合的に診断します。
血液検査:cPL(膵特異的リパーゼ)
最も重要な検査が、Spec cPLまたはSNAP cPLと呼ばれる血液検査です。
これは膵臓から漏れ出た「膵特異的リパーゼ」という酵素を測定するもので、膵炎の診断において感度・特異度ともに高い優れた検査です。
- Spec cPL:院外検査で数値が正確に出る(結果まで1〜2日)
- SNAP cPL:院内で15分程度で結果が分かる迅速検査
数値が高いほど膵炎の可能性が高く、治療効果の判定にも使えます。
その他、DGGR リパーゼという検査も有用で、cPLと併用することでさらに診断精度が上がります。
超音波検査(エコー)
お腹に超音波プローブを当てて、膵臓の状態を直接観察します。
膵炎では、膵臓が腫れていたり、周囲に液体が溜まっていたり、腸の動きが悪くなっていたりする所見が見られます。また、胆石や腫瘍など、他の病気との区別にも役立ちます。
最新の造影超音波検査(CEUS)を行える病院では、より詳細に膵臓の血流や炎症の程度を評価できます。
レントゲン検査
膵炎そのものはレントゲンには写りませんが、腸の閉塞や腹水の有無、他の臓器の異常をチェックするために撮影します。
CT検査
重症例や、診断が難しいケースでは、CT検査を行うこともあります。膵臓の壊死(組織が死んでしまった部分)や膿瘍の有無を確認でき、治療方針の決定に役立ちます。
早期発見のメリット
膵炎は、発症から治療開始までの時間が短いほど予後が良いことが分かっています。
軽症のうちに治療を始めれば、入院期間は2〜3日程度、費用も5〜10万円程度で済むことが多いです。しかし重症化してから来院すると、1週間以上の入院が必要になり、集中治療の費用は30〜50万円、場合によっては100万円を超えることもあります。
何より、早期治療が愛犬の命を救うのです。
▼ 膵炎の入院費・治療費のリアルな明細はこちら
最新エビデンスに基づく治療法「絶食はもう古い?」
膵炎の治療は、この10年で大きく変わりました。特に重要なのが、「絶食」に対する考え方の変化です。
基本は輸液療法:点滴で命をつなぐ
膵炎の犬は、嘔吐や下痢、食欲不振によって深刻な脱水に陥っています。脱水は血流を悪化させ、膵臓をはじめとする臓器へのダメージを加速させます。
そのため、膵炎治療の最も基本となるのが点滴による輸液療法です。
静脈に点滴のカテーテルを入れ、大量の輸液を投与することで、血圧を維持し、臓器への血流を確保します。軽症例では1〜2日、重症例では1週間以上の持続点滴が必要になることもあります。
痛み止めと吐き気止めは必須
膵炎の激しい腹痛は、犬に大きなストレスを与え、回復を妨げます。適切な鎮痛薬(オピオイド系やNSAIDs)を使って、痛みをしっかりコントロールすることが重要です。
また、制吐薬(マロピタント、メトクロプラミドなど)で嘔吐を止めることも、早期回復のカギとなります。
革命的な新薬:フサプラジブナトリウム(ブレンダ)
2020年代に入り、膵炎治療に革命をもたらした薬があります。それがフサプラジブナトリウム(商品名:ブレンダ)です。
従来の治療は「対症療法」が中心で、炎症そのものを止める薬はありませんでした。しかしフサプラジブは、炎症を悪化させる白血球の動きを直接ブロックすることで、膵臓へのダメージ拡大を防ぎます。
具体的には、白血球が血管から膵臓へ移動するときに使う「接着分子」を阻害する仕組みです。これにより、炎症の連鎖反応を早期に断ち切ることができます。
臨床試験では、ブレンダを使用した犬は、使用しなかった犬に比べて:
- 嘔吐が早く止まる
- 食欲が早く戻る
- 入院期間が短くなる
といった効果が確認されています。
ただし、ブレンダは比較的新しい薬であり、すべての動物病院で使用できるわけではありません。また、軽症例では必要ない場合もあります。獣医師と相談の上、使用を検討してください。
「絶食はもう古い」早期経腸栄養が生存率を上げる
以前は、「膵臓を休ませるために絶食が必要」というのが膵炎治療の常識でした。
しかし最新の研究により、長期の絶食はむしろ有害であることが分かってきました。
腸を使わないでいると、腸の粘膜が萎縮し、バリア機能が低下します。すると、腸内細菌が血液中に入り込んで全身感染を起こしたり、免疫機能が低下したりして、かえって回復が遅れるのです。
現在の世界標準は、「吐き気が止まれば、できるだけ早く食事を再開する」という方針です。これを「早期経腸栄養」と呼びます。
具体的には:
- 嘔吐が24時間止まっていれば、少量の低脂肪食を与える
- 最初は通常量の1/4〜1/3程度から
- 吐かなければ、2〜3日かけて徐々に増やす
- どうしても食べられない場合は、鼻から胃にチューブを入れる「経鼻胃管」や、食道に直接チューブを留置する「食道チューブ」を使うことも
「絶食しない」ことで、腸の健康を保ち、栄養状態を維持し、回復を早めることができるのです。
入院期間と治療費用の目安
膵炎の入院期間は、重症度によって大きく異なります。
- 軽症:2〜3日(費用:5〜10万円)
- 中等症:4〜7日(費用:15〜30万円)
- 重症:1〜2週間以上(費用:30〜100万円以上)
ICU管理や集中治療が必要な場合、酸素室の使用、頻繁な血液検査、CTなどの画像検査が加わると、費用はさらに高額になります。
ペット保険に加入している場合は、補償の対象になることが多いので、診断書や領収書を必ず保管してください。
▼ 膵炎の余命と再発率|天寿を全うするための生存戦略
膵炎の犬の食事管理と療法食:再発させないための鉄則
膵炎から回復した後、最も重要なのが食事管理です。不適切な食事は、再発の最大のリスク要因だからです。
なぜ「低脂肪」が絶対条件なのか
膵臓は、脂肪を消化するための「リパーゼ」という酵素を分泌します。高脂肪の食事をとると、膵臓はフル稼働してリパーゼを大量に作らなければなりません。
膵炎で傷ついた膵臓にこの負担をかけると、炎症が再燃しやすくなります。また、高脂肪食は血液中の脂質濃度を上げ、膵臓の微小血管を詰まらせて再度ダメージを与えることもあります。
そのため、膵炎の犬には生涯にわたって低脂肪食が推奨されます。
「低脂肪」の具体的な基準
獣医栄養学では、膵炎の犬の食事は以下の基準が推奨されています:
- 乾物ベースで脂肪10〜15%以下
- 高脂血症を伴う場合は10%以下
「乾物ベース」とは、水分を除いた純粋な栄養素の割合のこと。市販のドッグフードのパッケージには「保証成分値」が記載されていますが、これは「そのままベース」なので、計算が必要です。
乾物ベースの計算方法
例:パッケージに「粗脂肪 5%、水分 75%」と書かれている場合
- 乾物量 = 100% – 75%(水分) = 25%
- 乾物ベースの脂肪 = 5% ÷ 25% × 100 = 20%
この場合、脂肪20%なので膵炎の犬には高すぎます。
計算が難しい場合は、獣医師が推奨する膵炎用の療法食を選ぶのが確実です。
おすすめの療法食
膵炎の犬向けに開発された主な療法食:
- ロイヤルカナン 消化器サポート(低脂肪)
- ヒルズ i/d ローファット
- 和漢みらいのドッグフード
これらは脂肪含量が適切にコントロールされているだけでなく、消化しやすいタンパク質や、腸の健康を保つための食物繊維なども配合されています。
▼ 【獣医師厳選】膵炎再発を防ぐ「低脂肪ドッグフード」おすすめランキング
手作り食のリスクと注意点
「愛犬のために手作りしたい」という飼い主さんの気持ちは素晴らしいものです。しかし、膵炎の犬の手作り食には大きなリスクがあります。
脂質の正確な計算が非常に難しいのです。
例えば鶏むね肉は「低脂肪」のイメージがありますが、皮付きだと脂肪は大幅に増えます。また、調理に使う油、野菜に含まれる微量の脂肪なども積算する必要があります。
「低脂肪のつもり」で作った食事が、実際には基準を大きく超えていた、というケースは少なくありません。
どうしても手作りしたい場合は、獣医栄養学の専門家に相談し、レシピを作成してもらうことを強くお勧めします。
絶対に与えてはいけないNG食材とおやつ
以下の食材は、膵炎の犬には絶対に与えないでください:
- 揚げ物全般(唐揚げ、天ぷら、フライドポテトなど)
- 脂身の多い肉(豚バラ、牛カルビ、鶏皮、ベーコン、ソーセージなど)
- チーズ、バター、生クリームなどの乳製品
- ナッツ類(特にマカダミアナッツは脂肪が極めて高い)
- 市販の犬用おやつ(ジャーキー、ささみチップスも脂肪が高いものが多い)
- 人間の食べ物の残り
「ちょっとだけなら」「かわいそうだから」という気持ちは分かります。しかし、たった一口の脂っこい食べ物が、再発の引き金になることがあるのです。
おやつを与えたい場合は
どうしてもおやつを与えたい場合は:
- 茹でたささみ(皮と脂肪を完全に除去)
- 茹でたかぼちゃやさつまいも(少量)
- 膵炎対応の療法食をおやつとして少量取り分ける
- 低脂肪の犬用おやつ(獣医師に確認してから)
おやつは1日の総カロリーの10%以内に抑え、その分主食を減らすようにしてください。
▼ 膵炎でも食べていいおやつ・NGリスト
▼ 手作りごはんは危険?安全なレシピの考え方
慢性膵炎と長期管理:「治らない」けれど「付き合える」病気
慢性膵炎との向き合い方
急性膵炎から回復しても、一度ダメージを受けた膵臓は完全には元に戻りません。多くの犬が、その後「慢性膵炎」の状態になります。
慢性膵炎は「治らない」というよりも、「コントロールしながら付き合っていく」病気です。
適切な食事管理と定期的なチェックを続けることで、症状のない穏やかな日常を送ることができます。実際、慢性膵炎でも10年以上元気に暮らしている犬はたくさんいます。
合併症のリスク:糖尿病とEPI
慢性膵炎が長期間続くと、膵臓の細胞が徐々に破壊され、2つの重大な合併症が起こることがあります。
糖尿病
膵臓は、血糖値を下げる「インスリン」というホルモンも作っています。膵臓の細胞が減ると、インスリンが足りなくなり、糖尿病を発症します。
症状:
- 水をたくさん飲む
- おしっこの量が増える
- よく食べるのに痩せてくる
糖尿病を発症した場合、生涯にわたるインスリン注射が必要になります。
膵外分泌不全(EPI)
膵臓の消化酵素を作る細胞が失われると、食べ物を消化できなくなります。これがEPIです。
症状:
- 大量の下痢(脂肪が混ざった白っぽく悪臭の強い便)
- 食欲はあるのにどんどん痩せる
- 毛艶が悪くなる
EPIと診断されたら、食事のたびに膵酵素サプリメントを与える必要があります。
定期チェックで早期発見
慢性膵炎の犬は、3〜6ヶ月ごとの定期検診が推奨されます。
チェック項目:
- 血液検査(cPL、肝臓・腎臓の数値、血糖値など)
- 体重測定(急激な増減は注意信号)
- 超音波検査(年1回程度)
異常の早期発見が、QOL(生活の質)を維持する鍵となります。
再発を防ぐために飼い主ができること
膵炎は再発しやすい病気です。研究によれば、一度膵炎を起こした犬の約30〜40%が再発するとされています。
しかし、適切な管理によって再発リスクは大幅に減らせます。
再発予防の5つの鉄則
1. 低脂肪食を厳守する
これが最も重要です。療法食を続け、人間の食べ物は一切与えないでください。
家族全員で約束を共有し、「かわいそうだから」「少しだけなら」という気持ちを封印することが大切です。
▼ 繰り返す膵炎に。「和漢みらい」の獣医師レビュー
2. 体重管理を徹底する
肥満は膵炎の大きなリスク要因です。理想体重を維持するため:
- 定期的に体重を測る
- 食事量を守る(欲しがっても増やさない)
- 適度な運動を続ける
3. 拾い食い・盗み食いを防ぐ
散歩中の拾い食いや、ゴミ箱あさりが再発の原因になることがあります。
- 散歩は常にリード
を短めにして目を離さない
- ゴミ箱は犬が開けられない場所に置く
- キッチンに入れないようゲートを設置
- 家族の食事中は別室で過ごさせる
4. 定期的な健康チェック
症状がなくても、定期的に動物病院でチェックを受けましょう。
- 3〜6ヶ月ごとの血液検査(cPL値の確認)
- 年1回の超音波検査
- 気になる症状があればすぐに受診
早期発見できれば、軽い治療で済むことが多いのです。
5. ストレス管理
実は、ストレスも膵炎の誘因になることがあります。
- 引越しや家族構成の変化
- 長時間の留守番
- 騒音や環境の急激な変化
こうしたストレス要因をできるだけ減らし、愛犬が安心して過ごせる環境を整えてあげましょう。
「こんな時はすぐ病院へ」再発の兆候チェックリスト
以下の症状が見られたら、再発の可能性があります。すぐに動物病院に連絡してください。
□ 嘔吐が始まった(特に2回以上)
□ 食欲が急に落ちた、または全く食べない
□ 元気がなく、ぐったりしている
□ お腹を痛そうにしている、祈りのポーズをとる
□ 下痢が始まった
□ 体が震えている
「前回も大丈夫だったから」と油断せず、早めの受診を心がけてください。再発の場合、前回より重症化することもあります。
膵炎と診断されたら:飼い主さんへのメッセージ
「治らない」という言葉に絶望しないで
獣医師から「慢性膵炎です」「完治は難しいかもしれません」と言われると、多くの飼い主さんがショックを受けます。
しかし、「治らない」は「幸せに暮らせない」という意味ではありません。
糖尿病や高血圧のように、適切に管理すれば普通の生活を送れる「慢性疾患」と考えてください。実際、慢性膵炎と診断されてから10年以上元気に過ごしている犬はたくさんいます。
余命について正直に話すなら
「膵炎の犬の余命はどのくらいですか?」という質問をよく受けます。
正直にお答えすると、余命は重症度と管理次第で大きく変わるため、一概には言えません。
- 軽症の急性膵炎を治療し、その後再発しなかった場合:膵炎がない犬と同じ寿命を全うできます
- 適切に管理されている慢性膵炎:平均余命への影響は最小限
- 重症の急性膵炎で多臓器不全に至った場合:残念ながら数日〜数週間で命を落とすこともあります
- 管理が不十分で頻繁に再発する場合:合併症により数年以内に影響が出ることもあります
つまり、飼い主さんの努力次第で、余命は大きく変わるのです。
費用の不安について
膵炎の治療費は決して安くありません。特に初回の入院では10万円以上かかることも珍しくなく、重症例では100万円近くになることもあります。
しかし、費用の心配で治療を躊躇すると、命を落とすリスクが高まります。
- ペット保険の加入を検討(既往症がある場合は制限されることも)
- 動物病院に支払いプランを相談(分割払いに対応している病院もあります)
- 高額療養費制度のような公的支援はないが、クレジットカードや医療ローンの活用も
何より、予防と早期発見が最大の節約です。適切な食事管理で再発を防げば、長期的には医療費を大きく抑えられます。
あなたは一人じゃない
膵炎の愛犬を看護するのは、精神的にも肉体的にも大変です。特に慢性膵炎で長期管理が必要な場合、「一生続けられるだろうか」と不安になることもあるでしょう。
でも、あなたは一人ではありません。
- かかりつけの獣医師に不安や疑問を遠慮なく相談してください
- 同じ境遇の飼い主さんとつながる(SNSやペットの病気のコミュニティ)
- 完璧を目指さない(時には自分を許すことも大切)
あなたが愛犬のためにできることをしている、そのこと自体が素晴らしいのです。
まとめ:膵炎と向き合うために知っておくべきこと
最後に、この記事の重要ポイントをまとめます。
膵炎の基本を押さえる
- 膵炎は膵臓が自己消化を起こす病気で、重症化すると全身に炎症が広がり命に関わる
- 急性膵炎と慢性膵炎があり、慢性膵炎は「治らない」が「コントロールできる」病気
- 死亡率は重症度次第:軽症なら90%以上が回復、重症では20〜40%の死亡率
症状を見逃さない
- 頻回の嘔吐、食欲不振、祈りのポーズが典型的なサイン
- 震え、下痢、血便なども要注意
- 症状が出たら「様子見」せず、すぐに動物病院へ
診断は血液検査が鍵
- Spec cPLやSNAP cPLが診断の決め手
- 超音波検査で膵臓の状態を直接確認
- 早期発見が生存率を大きく左右する
治療法は進化している
- 点滴、鎮痛、制吐が基本治療
- フザプラジブ(ブレンダ)という新薬が炎症を直接抑える
- 「絶食はもう古い」:吐き気が止まれば早期に食事を再開する「早期経腸栄養」が世界標準
食事管理が最重要
- 低脂肪食(乾物ベースで脂肪10〜15%以下)を生涯続ける
- 療法食が最も確実(ロイヤルカナン、ヒルズなど)
- 人間の食べ物、高脂肪のおやつは絶対NG
- 手作り食は脂質計算が難しく、専門家への相談が必須
再発予防の徹底
- 低脂肪食の厳守、体重管理、定期検診が三本柱
- 拾い食い・盗み食いを防ぐ環境づくり
- 少しでも異変を感じたらすぐ受診
慢性膵炎との付き合い方
- 適切な管理で普通に暮らせる
- 糖尿病やEPI(膵外分泌不全)の合併症に注意
- 3〜6ヶ月ごとのチェックで早期発見
最後に:希望を持って前を向こう
「愛犬が膵炎と診断された」
その瞬間、多くの飼い主さんが絶望的な気持ちになります。私も臨床現場で、涙を流しながら「助かりますか?」と尋ねる飼い主さんを数え切れないほど見てきました。
しかし、同時に私は、膵炎から完全に回復し、元気に走り回る犬たちもたくさん見てきました。慢性膵炎と診断されても、15歳まで幸せに暮らした犬もいます。
膵炎は、正しい知識と適切な治療、そして飼い主さんの愛情があれば、十分に向き合える病気なのです。
この記事が、愛犬の膵炎と向き合うあなたの力になれば幸いです。
少しでも「いつもと違う」と感じたら、遠慮なく動物病院に相談してください。あなたの「気づき」と「行動」が、愛犬の命を救います。
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📚 参考文献・医学的根拠
本記事は、以下の最新の獣医学論文、ガイドライン、および臨床エビデンスに基づき執筆・監修されています。
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最新治療薬(フサプラジブ)の効果について
Fuzapladib in a randomized controlled multicenter masked study in dogs with presumptive acute onset pancreatitis
(PMC, 2023) ※抗炎症薬フサプラジブナトリウムが臨床症状(嘔吐・腹痛)の改善を有意に早めることを示した多施設共同研究。 -
早期経腸栄養(食べて治す)の有用性について
Retrospective evaluation of the impact of early enteral nutrition on clinical outcomes in dogs with pancreatitis
(Journal of Veterinary Emergency and Critical Care) ※発症後早期(48時間以内)に食事を開始することで、自発的な摂食への回復が早まり、入院期間短縮の傾向が示された研究。 -
診断マーカー(cPL, DGGRリパーゼ)の精度比較
A comparative analysis of canine pancreatic lipase tests for diagnosing pancreatitis in dogs
(PMC, 2024) ※Spec cPL、SNAP cPL、DGGRリパーゼなどの感度・特異度を比較し、これらを組み合わせた診断の重要性を示唆した論文。 -
犬の急性膵炎治療の包括的レビュー
Treatment of Acute Pancreatitis in Dogs
(Today’s Veterinary Practice) ※輸液療法、疼痛管理、制吐剤の使用など、現代の標準的な治療プロトコルについて。 -
膵炎における酸化ストレスと病態生理
Peripheral biomarkers of oxidative stress in dogs with acute pancreatitis
(PMC, 2022) ※膵炎が局所の炎症にとどまらず、全身性の酸化ストレスやSIRS(全身性炎症反応症候群)へ波及するメカニズムについて。 -
MSD Veterinary Manual
Pancreatitis in Dogs and Cats
※犬猫の膵炎に関する世界的な獣医学マニュアル。







