朝起きたら、床に黄色い泡が広がっている。その光景を見て、心臓がバクバクしていませんか?
「カッカッ」という苦しそうな音。背中を丸めて吐き出す愛犬の姿。そして床に残された、黄色い、あるいは白い泡──。腎臓病と診断されている飼い主さんにとって、この光景は「ついに末期が来たのか」「毒素が全身に回っているのか」という恐怖と直結します。
夜中に吐く音で目が覚め、眠れない夜を過ごす。「もう何も食べさせられないのでは」「このまま弱っていくのを見ているしかないのか」と、絶望的な気持ちになっている方もいるでしょう。
私はサク、臨床経験10年の現役獣医師です。今日この記事では、腎臓病の犬が吐く「本当の理由」と、その泡の色が意味すること、そして今夜からあなたの家でできる具体的な対策を、すべてお伝えします。
まず、深呼吸してください。そして知っていただきたいことがあります。腎臓病の犬にとって、吐くことは「よくある症状」であり、適切な対策で劇的に改善できるものです。吐いたからといって、すぐに命に関わるわけではありません。
この10年間、私は何百頭もの腎臓病の犬たちを診てきました。その中で、食事の与え方を変えるだけで、毎日吐いていた子が週に1回程度まで減った例を、数え切れないほど見てきました。吐き気は、コントロールできます。
この記事を最後まで読んでいただければ、「なぜうちの子は吐くのか」という疑問が解消され、明日からの食事の与え方に自信が持てるようになります。そして何より、愛犬の苦しそうな表情が、少しでも穏やかになる日が来るはずです。
では、まず「吐いた泡の色」から、その正体を探っていきましょう。
※本記事を読まれる前に、愛犬のステージや病気の全体像を正しく理解しておくことも大切です。
⬇️ 【獣医師監修】犬の腎臓病の初期症状・ステージ別余命・最新治療の完全ガイド]
【色別】愛犬が吐いた「泡」の正体──何が起きているのか?
嘔吐物の色は、何が胃から出てきたかを教えてくれる重要なサインです。色ごとに、体の中で起きていることが違います。
黄色い泡:「胆汁」が逆流している証拠
黄色い泡の正体は「胆汁(たんじゅう)」です。胆汁は、肝臓で作られて胆嚢に蓄えられ、食事をすると十二指腸(小腸の入り口)に分泌される消化液です。
通常、胆汁は胃には入ってきません。ところが、胃が空っぽの時間が長く続くと、胆汁が逆流して胃に入り込み、胃を刺激して吐き気を引き起こします。これを「胆汁嘔吐症候群(Bilious Vomiting Syndrome)」と呼びます。
特に多いタイミングは、
- 朝起きてすぐ(夕食から朝食まで10時間以上空いている)
- 夜中の2~4時ごろ(夕食の消化が終わり、胃が空になった時)
腎臓病の犬は食欲が落ちやすく、食事量が減るため、「空腹時間が長くなりがち」です。それが黄色い泡を吐く一番の原因です。
白い泡:「胃液」や「唾液」が出ている状態
白い泡の正体は、胃液(胃酸を含む液体)や唾液が混ざったものです。これは胃の中に食べ物がほとんどなく、胃液だけが分泌されている状態で起こります。
腎臓病の犬は、後ほど詳しく説明しますが、胃酸が過剰に分泌されやすい体質になっています。胃酸が多すぎると、胃の粘膜が荒れて「ムカムカ」し、白い泡状の胃液を吐くことがあります。
これも、黄色い泡と同じく「空腹」や「胃酸過多」が原因であり、命に直結する危険な嘔吐ではありません。
⚠️要注意:ピンク色・赤色・コーヒー色の嘔吐物
ここからは、すぐに動物病院へ連絡すべき危険なサインです。
- ピンク色の泡:新鮮な血液が混ざっている(胃や食道の出血)
- コーヒーの残りかすのような黒い嘔吐物:胃の中で血液が胃酸と反応して黒くなったもの(胃潰瘍の可能性)
- 赤い液体:大量の出血
腎臓病が進行すると、尿毒症の影響で胃の粘膜が非常に薄くなり、胃潰瘍ができやすくなります。吐いたものにこれらの色が混ざっている場合は、緊急性が高いため、すぐに獣医師に相談してください。
なぜ腎臓病になると吐くのか?──2つの大きな理由
ここで、多くの飼い主さんが疑問に思う「なぜ、腎臓が悪いのに胃が荒れるのか?」という根本的な問いに答えます。
理由①:尿毒症による胃粘膜への直接攻撃
腎臓の機能が低下すると、本来尿として排出されるべき老廃物(尿素窒素、クレアチニンなど)が血液中に溜まります。これを「尿毒症」と呼びます。
この毒素は、全身を巡って様々な臓器に悪影響を与えますが、特に胃や腸の粘膜は非常に敏感です。毒素が胃の粘膜を刺激し、炎症を起こし、結果として「ムカムカ」や「吐き気」が生じるのです。
例えるなら、お酒を飲み過ぎた翌朝の胃荒れと似ています。アルコールという「毒素」が胃を荒らすように、尿毒症の毒素も胃を攻撃するのです。
理由②:ガストリンの蓄積──胃酸が止まらなくなる
もう一つの重要な原因が、ガストリンというホルモンです。
ガストリンは胃から分泌され、「胃酸を出せ!」という指令を出すホルモンです。通常、このガストリンは腎臓で分解・排泄されます。ところが腎臓が弱ると、ガストリンが体内に溜まり続け、胃酸が過剰に分泌されるようになります。
胃酸が多すぎると、胃の粘膜が自分自身を消化してしまい(自己消化)、胃炎や胃潰瘍を引き起こします。これが、腎臓病の犬が「常にムカムカしている」理由です。
獣医師が診察室で教える、吐き気を抑える5つの対策
さて、ここからが最も重要なパートです。家で今日からできる、吐き気を減らすための具体的な対策をお伝えします。
私の患者さんたちの中で、これらの工夫を実践した方々は、ほとんどが「吐く回数が減った」「表情が明るくなった」と報告してくださっています。
対策①:食事の回数を増やす──1日4~5回の「小分け給餌」
これが最も効果的で、最も簡単な方法です。
腎臓病の犬が吐く最大の原因は「空腹時間が長すぎること」です。だからこそ、1日2回の食事を、4~5回に小分けにするだけで、劇的に改善します。
具体的には、
- 朝7時:1回目
- 昼12時:2回目
- 夕方5時:3回目
- 夜9時:4回目
- 可能なら深夜1時にも少量
「そんなに何度もあげられない」と思うかもしれませんが、1回の量は今までの半分以下で大丈夫です。大切なのは「常に胃に少し何かが入っている状態を保つこと」です。
私の患者さんで、毎朝黄色い泡を吐いていた柴犬がいました。飼い主さんが食事を3回に増やし、さらに寝る前に一口だけ療法食を与えるようにしたところ、その週から一度も吐かなくなりました。それほど、シンプルで効果的な方法なのです。
対策②:寝る前の「魔法のひと口」──夜食の重要性
特に朝方に吐く子には、寝る直前(夜10~11時)に、一口だけ何かを食べさせることを強くお勧めします。
これは夕食から朝食までの「空腹の谷間」を埋めるための戦略です。ほんの一口(療法食を5~10粒程度)でも、胃が空っぽにならず、朝の胆汁逆流を防げます。
「夜中に起きて食べさせるのは無理」という方は、自動給餌器を活用するのも一つの手です。タイマーをセットしておけば、深夜2時にも自動で少量のフードを出してくれます。
対策③:食器の高さを調整する──首を下げさせない工夫
意外と見落とされがちですが、食器の高さも嘔吐に影響します。
床に直接食器を置くと、犬は首を大きく下げて食べることになります。この姿勢は、食道と胃の角度が急になり、食べ物が逆流しやすくなるのです。
理想は、犬の胸の高さに食器を設置することです。台に乗せるか、専用の高さ調整スタンドを使いましょう。これだけで、食後の吐き戻しが減るケースもあります。
対策④:水の温度に注意──冷たすぎる水は避ける
腎臓病の犬は、胃が非常に敏感です。冷蔵庫から出したばかりの冷たい水を一気に飲むと、胃が刺激されて嘔吐を誘発することがあります。
特に夏場は、常温の水、あるいはぬるま湯(人肌程度)を用意してあげてください。これは人間も同じですが、冷たいものは胃に負担をかけるのです。
対策⑤:フードの見直し──消化が良く、香りが高い「食べてくれる療法食」
最後に、そして最も重要なのが「食事そのもの」の見直しです。
腎臓病の療法食は、リンやタンパク質が制限されている反面、「味が薄い」「香りが少ない」という欠点があります。そのため、食欲が落ちている犬は食べてくれず、結果として「空腹時間が長くなり、吐く」という悪循環に陥ります。
ここで重要なのは、「栄養バランスが完璧でも、食べてくれなければ意味がない」という事実です。
食事の改善:吐き気が強い子にこそ「食いつきの良い療法食」が必要な理由
私が診察室で飼い主さんによく伝えるのは、「吐き気がある子ほど、美味しい療法食を選んでください」ということです。
なぜなら、少しでも食べてくれることが、空腹時間を短くし、吐き気を減らす最大の武器だからです。
消化が良く、胃に優しいフードの条件
吐き気が強い腎臓病の犬に適したフードの条件は、
- 消化吸収が良い(胃に滞留する時間が短い)
- 香りが強い(食欲を刺激する天然の香り)
- 粒が小さい、またはウェットタイプ(噛む負担が少ない)
- リン・タンパク質が適切に制限されている(腎臓への負担が少ない)
これらの条件を満たすフードとして、私が臨床現場で特に推奨しているのが、Yum Yum Yum!(ヤムヤムヤム)の腎臓サポートや、犬心の腎臓ケアです。
特にYum Yum Yum!は、カツオの天然の香りが非常に強く、食欲が落ちている子でも「クンクン」と鼻を近づけて食べ始めるケースが多いです。また、国産で添加物が少なく、消化にも優れているため、胃が敏感な子にも安心して与えられます。
【獣医師厳選】吐き気がある子に最適な療法食ランキング
ただし、すべての犬に同じフードが合うわけではありません。体質や好み、病気のステージによって、最適なフードは変わります。
そこで、実際の臨床現場で「食いつきが良い」「吐く回数が減った」と評判のフードを厳選し、ランキング形式でまとめた記事を作成しました。
この記事では、
- 吐き気が強い子専用のフード選びのポイント
- 各フードの成分分析と消化性の比較
- 実際に使用した飼い主さんの口コミ(「吐かなくなった」という声多数)
- 食いつきを良くする「トッピングテクニック」
を詳しく解説しています。特に、ウェットタイプとドライタイプ、どちらが吐きにくいかという実践的な情報も掲載していますので、「うちの子、何を食べさせたらいいか分からない」とお悩みの方には必ず役立つはずです。
動物病院へ行くべき「危険なサイン」
ここまで、家でできる対策をお伝えしてきましたが、以下のような症状がある場合は、すぐに動物病院へ連絡してください。
緊急性が高い症状
- 1日に3回以上吐く
- 水も飲めない、飲んでもすぐ吐く
- ぐったりして動かない
- 嘔吐物に血が混ざっている(ピンク、赤、コーヒー色)
- 下痢も同時に起きている
- お腹を触ると痛がる
これらは、胃潰瘍や腎不全の急性増悪(急激な悪化)、あるいは脱水が進行しているサインです。自宅での対処では間に合わない状態ですので、迷わず病院へ。
病院での治療:制酸剤と点滴
動物病院では、以下のような治療が行われます。
- 制酸剤の投与(ファモチジン、オメプラゾールなど):胃酸の分泌を抑える
- 吐き気止め(制吐剤)(メトクロプラミド、マロピタントなど):嘔吐中枢に働きかける
- 点滴療法:脱水を改善し、体内の毒素を薄める
- 胃粘膜保護剤(スクラルファートなど):荒れた胃の粘膜を保護する
これらの治療と、自宅での食事管理を組み合わせることで、ほとんどの犬は吐き気をコントロールできます。
私の診察室での実話:毎日吐いていたダックスが笑顔を取り戻した話
ここで、私が担当したミニチュアダックスフンドのモモちゃん(仮名)のお話をさせてください。
モモちゃんは12歳で慢性腎臓病(ステージ3)と診断され、毎朝必ず黄色い泡を吐いていました。飼い主さんは「朝起きるのが怖い。また吐いているんじゃないかと思うと、眠れない」と涙ながらに話してくださいました。
私はまず、食事の回数を1日2回から4回に増やし、寝る前に一口だけ療法食を与えるようアドバイスしました。さらに、食いつきの良い国産の療法食に切り替え、ウェットフードを混ぜる工夫もしてもらいました。
2週間後、モモちゃんは一度も吐かなくなりました。飼い主さんは「こんなに簡単なことで、こんなに変わるなんて思いませんでした」と驚いていました。
そして何より嬉しかったのは、モモちゃんの表情が明るくなったことです。吐き気から解放されると、犬は本当に穏やかな顔になります。散歩にも積極的に行くようになり、飼い主さんとの時間を楽しめるようになりました。
吐き気をコントロールすることは、QOL(生活の質)を劇的に改善します。
よくある質問(FAQ)
Q. 胃薬(人間用)を飲ませても大丈夫ですか?
A. 絶対に自己判断で人間用の薬を与えないでください。人間用の胃薬の中には、犬にとって有毒な成分が含まれているものもあります。必ず動物病院で処方された薬を使用してください。
Q. 療法食を食べてくれない時、何を混ぜたらいいですか?
A. 以下のような低リン・低タンパクのトッピングがお勧めです。
- 白米のおかゆ(少量)
- 鶏ささみの茹で汁(茹で汁のみ、肉は少量)
- さつまいものペースト
ただし、トッピングは全体の10~20%程度に留めてください。それ以上増やすと、療法食の栄養バランスが崩れます。
Q. 吐いた後、すぐに食事を与えても大丈夫?
A. 吐いた直後は、30分~1時間は胃を休ませてください。その後、少量の水を与えて様子を見て、問題なければ少量のフード(通常の1/4程度)を与えます。一度に大量に食べさせると、再び吐く可能性があります。
まとめ:吐く回数が減るだけで、愛犬の世界は変わります
ここまで長い文章をお読みいただき、本当にありがとうございます。
最後に、獣医師として、そして一人の犬好きとして、あなたにお伝えしたいことがあります。
愛犬が吐く姿を見るのは、本当に辛いことです。「私のせいで苦しませているんじゃないか」「もっと早く気づいてあげられたら」と、自分を責める飼い主さんを、私はたくさん見てきました。
でも、どうか自分を責めないでください。腎臓病の犬が吐くのは、あなたのせいではありません。それは病気の一部であり、適切な対処で改善できるものです。
吐く回数が減るだけで、愛犬の表情は劇的に明るくなります。ムカムカから解放されると、犬はもっと笑顔を見せてくれるようになります。散歩に行きたがり、あなたのそばで安心して眠るようになります。
今夜、まずは一つだけ試してみてください。寝る前に、療法食を5粒だけ、愛犬に食べさせてあげてください。それだけで、明日の朝が変わるかもしれません。
そして、フードの見直しも検討してみてください。食いつきが良く、消化に優れた療法食に変えるだけで、吐く回数が減った子は本当にたくさんいます。
吐き気は、諦めなければコントロールできます。あなたと愛犬の毎日が、少しでも穏やかになることを心から願っています。
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