「先生、もう3日も何も食べてくれないんです…」
先日、診察室で飼い主さんが震える声でそう言いながら、目に涙を浮かべていました。14歳のミニチュアダックス、モモちゃんの飼い主さんです。
腎臓病と診断され、療法食を処方したのは2週間前。でもモモちゃんは一口も食べず、日に日に痩せていく。「このままじゃ死んでしまう」という恐怖と、「でも嫌がるものを無理やりあげるのはかわいそう」という葛藤で、飼い主さんは追い詰められていました。
私は10年間、動物病院で多くの腎臓病患者を診てきました。そして断言できます。愛犬が療法食を食べないのは、決して「わがまま」ではありません。
腎臓病という病気そのものが、食欲を奪っているのです。
でも安心してください。この記事で紹介する「7つの裏技」を使えば、多くの犬が再び食べてくれるようになります。実際、モモちゃんも今では毎日完食してくれています。
あなたの愛犬も、きっと大丈夫です。
※本記事を読まれる前に、愛犬のステージや病気の全体像を正しく理解しておくことも大切です。
⬇️ 【獣医師監修】犬の腎臓病の初期症状・ステージ別余命・最新治療の完全ガイド]
この記事の著者・監修者:Dr.サク(臨床10年)
現役の獣医師、都内動物病院に勤務。腎臓病を中心に、食事療法で数多くの犬の健康寿命を延ばしてきた実績を持つ。専門的な医学的知見に基づき、愛犬に本当に必要なフードを厳選しています。
なぜ腎臓病の犬は急にフードを食べなくなるのか?
理由①:尿毒症による「吐き気」のせい
腎臓病が進行すると、本来なら尿として排出されるべき老廃物(尿毒素)が体内に溜まります。この尿毒素が胃腸を刺激し、人間でいう「二日酔いのような気持ち悪さ」を引き起こします。
想像してみてください。あなた自身が吐き気で苦しんでいる時、美味しそうな料理を目の前に出されても食べられないですよね。犬も同じなんです。
私の病院では、血液検査でBUN(尿素窒素)が60mg/dLを超えると、約7割の犬が食欲不振を示します。
理由②:療法食特有の「味の問題」
腎臓病用の療法食は、タンパク質とリンを制限するため、どうしても味が薄く、香りも控えめになります。
健康な時は喜んで食べていたフードと比べると、犬にとっては「急に病院食に変わった」ようなもの。しかも体調が悪い時ですから、余計に受け付けなくなるのです。
理由③:口の中の痛み(口内炎)
尿毒素は口の粘膜も刺激します。腎臓病の犬の約4割に口内炎や歯肉炎が見られ、これが「食べたいけど痛くて食べられない」という状況を作り出します。
だから「食べない=わがまま」と決めつけないでください。あなたの愛犬は、本当に辛いのです。
【実践編】獣医師が教える食欲復活の7つの裏技
ここからは、私が臨床現場で実際に指導している具体的な方法をお伝えします。
裏技①:フードを37〜40度に温める
これは最も効果的で、すぐに試せる方法です。
フードを温めると香り成分が揮発し、犬の嗅覚を刺激します。犬は味覚よりも嗅覚で食べ物を判断する生き物ですから、香りが立つだけで食欲が劇的に変わることがあります。
実践方法:
- 電子レンジで10〜15秒加熱(熱すぎないか必ず確認)
- または、お湯を入れたボウルにフードの袋ごと浸す
- 人肌程度(37〜40度)がベスト
私の病院では、この方法だけで約5割の犬が食べるようになりました。
裏技②:ふやかす際に「出汁」を使う
ドライフードをふやかす時、普通の水ではなく昆布やしいたけの出汁を使います。
ポイント:
- 昆布や干し椎茸を水に浸して一晩置く(煮出さない=リンが出にくい)
- 塩分ゼロの自然な旨味が犬の食欲を刺激
- 人間用の「だしの素」はNG(塩分が多すぎる)
実際、12歳のトイプードルの症例では、昆布出汁でふやかしたところ、3日目から完食するようになりました。
裏技③:食器の高さと素材を変える
腎臓病の犬は首を下げるだけで吐き気が増すことがあります。
改善策:
- 食器台を使い、犬の胸の高さに食器を設置
- ステンレス製は匂いが気になる子も→陶器やガラス製に変更
- 食器が小さすぎてヒゲが当たるストレスもチェック
これだけで食べ始めた子も少なくありません。
裏技④:1日の給餌回数を3〜4回に分散
一度にたくさん食べられない犬には、少量頻回が効果的です。
理由:
- 胃への負担が減る
- 吐き気のタイミングを避けられる
- 「完食できた」という達成感が次につながる
私の患者では、1日2回→4回に変更したところ、1日の総摂取量が1.5倍になったケースもあります。
裏技⑤:手作りトッピングの「黄金比」
療法食だけでは食べない場合、低タンパク・低リンのトッピングを少量加えます。
おすすめ食材:
- 白米(エネルギー補給・リンが少ない)
- さつまいも(食物繊維豊富)
- キャベツ(茹でて細かく刻む)
- 少量の鶏胸肉(茹でて脂を除く)
黄金比:療法食80% + トッピング20%
これなら栄養バランスを大きく崩さず、食欲を引き出せます。
裏技⑥:口の中を必ずチェック
食べない理由が「口内炎」なら、フードを工夫しても効果は限定的です。
確認方法:
- 唇をめくって歯茎の色をチェック(赤く腫れていないか)
- 口臭が急に強くなっていないか
- よだれが増えていないか
口内炎がある場合は、獣医師に相談して制酸剤や粘膜保護剤の処方を受けましょう。治療すれば食欲が戻ることも多いです。
裏技⑷:「美味しい療法食」に変える
正直に言います。すべての療法食が同じではありません。
一般的な療法食は「栄養基準は満たしているが、嗜好性は二の次」というものが多いのが現実です。でも最近は、美味しさにもこだわった療法食が増えています。
私が特に注目しているのが、「Yum Yum Yum! 健康マネジメント腎臓」です。
多くの犬が食べた「救世主フード」とは?
なぜYum Yum Yum!は他の療法食と違うのか
このフードの最大の特徴は、国産の鰹節をふんだんに使った香りです。
一般的な療法食が「病院の匂い」がすると拒否されることが多い中、Yum Yum Yum!は「ご飯を炊く匂い」に近く、犬の食欲本能を刺激します。
私の病院で、他社の療法食を3種類試して全滅だった柴犬(10歳)に試したところ、初日から完食。飼い主さんが涙を流して喜んでくれました。
「まずはトッピングから」でもOK
いきなり全量を切り替える必要はありません。
ステップ方式がおすすめ:
- 今の療法食にYum Yum Yum!を小さじ1杯混ぜる
- 食べたら徐々に比率を増やす
- 1週間かけて完全切り替え
この「慣らし期間」が、犬にも飼い主さんにもストレスが少ない方法です。
もっと詳しく知りたい方へ
実は、腎臓病用の療法食を徹底比較した記事も書いています。Yum Yum Yum!含め、獣医師が本当におすすめできるフードをランキング形式で紹介していますので、併せてご覧ください。
👉 【獣医師監修】犬の腎臓病フードおすすめランキング|嗜好性・栄養バランスで徹底比較
絶対にやってはいけない「NG行為」3つ
NG①:無理やり口に押し込む
これは最悪の対応です。
犬は「この食べ物=嫌な経験」と学習し、食事そのものへの恐怖心を持つようになります。一度こうなると、どんなに美味しいフードでも食べなくなります。
NG②:人間用のおやつで釣る
「とにかく何か食べさせなきゃ」と焦って、ハムやチーズ、ジャーキーを与えるのは危険です。
これらはリンと塩分が非常に高く、腎臓にさらなる負担をかけます。一時的に食べても、長期的には寿命を縮める結果になります。
NG③:「食べないなら下げる」を繰り返す
犬に「食べないと片付けられる」と学習させようとする方法ですが、腎臓病の場合は逆効果です。
体調が悪くて食べられないのに、さらに追い詰めることになります。
【表でわかる】食欲復活チェックリスト
| 項目 | チェック | 効果が出やすい犬 |
|---|---|---|
| フードを温める | □ | 嗅覚が衰えた高齢犬 |
| 出汁でふやかす | □ | ドライフードを嫌がる犬 |
| 食器の高さ調整 | □ | 吐き気が強い犬 |
| 給餌回数を増やす | □ | 一度に食べる量が少ない犬 |
| トッピング追加 | □ | 味に敏感な犬 |
| 口内炎チェック | □ | よだれ・口臭がある犬 |
| フード変更 | □ | 複数の療法食を拒否した犬 |
まずは上から順に3つ試してみてください。それでも難しい場合は、フードの変更も視野に入れましょう。
「食べない」と「寿命」の関係について
「食べないと死んでしまう」という恐怖は、よくわかります。
でも知っておいてほしいのは、腎臓病の犬の寿命を決めるのは「何を食べたか」よりも「どれだけ食べたか」という事実です。
栄養失調の方が危険
完璧な療法食でも、食べなければ意味がありません。それどころか、栄養不足で体力が落ち、余命がさらに短くなることもあります。
私の経験では、「療法食を少量+一般食で補う」という組み合わせで5年以上生きた犬もいます。一方、「完璧な療法食」にこだわって栄養失調になり、半年で亡くなった犬もいます。
「80点の食事を続ける」が正解
100点満点の療法食を目指すより、80点でもいいから毎日食べてくれる食事を選ぶ。これが、腎臓病の犬との暮らしで最も大切な考え方です。
まとめ:1口でも食べてくれたら、それは大きな一歩
腎臓病の愛犬が食べてくれない日々は、本当に辛いですよね。
でも思い出してください。あなたの愛犬は、あなたが思っている以上に頑張っています。
この記事で紹介した7つの裏技、すべてを一度に試す必要はありません。まずは1つだけ、今日から始めてみてください。
そして、小さじ1杯でも、一口でも食べてくれたら、それを心から褒めてあげてください。
「食べてくれた」という小さな成功体験の積み重ねが、あなたと愛犬の明日を作ります。
私たち獣医師も、全力でサポートします。一緒に、愛犬の笑顔を取り戻しましょう。
※かかりつけの動物病院で「フードを食べない」ことを必ず相談してください。血液検査の数値によっては、食欲増進剤や吐き気止めの処方が必要な場合もあります。あなたの愛犬が、また美味しそうにごはんを食べる日が来ますように。
📚 参考文献・出典(獣医師監修)
本記事は、以下の国際的な腎臓病ガイドラインおよび研究論文に基づき執筆されています。
-
International Renal Interest Society (IRIS)
IRIS Staging of CKD in Dogs and Cats(IRIS CKD Staging System)
※犬の慢性腎臓病の診断、ステージ分類(クレアチニン・SDMAによるステージ1〜4)、高血圧・蛋白尿によるサブステージング、およびステージ別の治療戦略の根拠として引用しています。[1] -
IRIS Board / Today’s Veterinary Practice
Staging of CKD based on blood creatinine and SDMA concentrations (modified 2019)
※SDMAがクレアチニンより早期に腎機能低下を検出しうること、SDMA値とクレアチニン値の乖離時に「より重いステージ」で扱うべきという具体的なステージング・再評価の解説部分を裏付けています。[2] -
IRIS
IRIS Staging of CKD in Dogs and Cats – 2023 update
※2023年改訂における犬のCKDステージ別クレアチニン・SDMAカットオフ(例:SDMA >18 μg/dL でステージ2として扱うなど)に関する最新の基準を参照し、「SDMAが高いと言われた時の再検査・経過観察」の推奨に反映しています。[3] -
Pedrinelli V. et al.
Nutritional and laboratory parameters affect the survival of dogs with chronic kidney disease
※腎臓病用療法食(リン・タンパク制限など)を摂取した犬では、維持食と比べて尿毒症クライシス発症までの期間および生存期間が延長した、というエビデンスとして「腎臓病の犬の療法食・栄養管理が予後を改善しうる」という記述を裏付けています。[4] -
ACVN / Today’s Veterinary Practice
Nutritional Management of Chronic Kidney Disease
※CKDにおけるリン・タンパク質・オメガ3脂肪酸など「腎臓病の犬の手作りご飯とリン制限」に関連する栄養学的要点、およびタンパク制限食が糸球体構造障害や生存期間に与える影響についての説明部分の根拠としています。[5] -
American College of Veterinary Internal Medicine (ACVIM)
ACVIM consensus statement: Guidelines for the identification, evaluation, and management of systemic hypertension in dogs and cats (2018)
※CKDに合併する高血圧の診断基準、血圧測定方法、リスク分類、降圧薬開始のタイミングなど、「腎臓病と高血圧管理」「ステージ4の余命と緩和ケア」における血圧コントロールに関する記述を支える根拠としています。[6] -
Lees G. et al. / ACVIM
2004 ACVIM Forum Consensus Statement: Assessment and Management of Proteinuria in Dogs and Cats
※持続性蛋白尿がCKD犬の予後不良因子であること、UPC値に基づくACE阻害薬などの治療開始基準など、「蛋白尿の評価と治療」「尿検査の重要性」を解説する部分の科学的根拠としています。[7] -
日本獣医腎泌尿器学会誌
Hypertension and proteinuria in dogs and cats with chronic kidney disease
※日本語圏の臨床現場に即したCKD犬の高血圧・蛋白尿管理に関する知見として、降圧療法が蛋白尿を軽減しうることや、その限界に関する解説を補強する目的で引用しています。[8]



