愛犬の呼吸を数えながら、夜を過ごしていませんか?
「まだ生きている」「まだ大丈夫」と確認するように、何度も胸に手を当てる。「苦しんで死ぬ」という情報をネットで見て、怖くて、悲しくて、どうしていいか分からなくなる。
「もし、明日の朝、冷たくなっていたら」「もし、私が仕事に行っている間に…」「もし、最期に痙攣して苦しんだら」──そんな想像をするたびに、涙が止まらなくなる。
私はDr.サク、臨床経験10年以上の現役獣医師です。この10年以上、私は何百頭もの犬たちの「最期」に立ち会ってきました。そして、その飼い主さんたちの悲しみ、後悔、そして時には「ありがとう」という笑顔を、数え切れないほど見てきました。
ここで、あなたに伝えたい真実があります。
腎臓病の最期は、必ずしも苦しいものではありません。
多くの場合、尿毒症が進行すると、犬は意識が朦朧とし、深い眠りに入るように旅立ちます。これは、「苦しみ」ではなく、むしろ「穏やか」な過程です。
そして、獣医療には「緩和ケア」という選択肢があります。痛みや吐き気を取り除き、最期の時間を穏やかに過ごすための治療です。
この記事は、あなたが愛犬の最期を「悲しみ」だけで終わらせるのではなく、「感謝」と「愛情」で満たすための手引書です。
読み終わった後、あなたはきっと、涙の中にも「覚悟」と「勇気」を見つけられるはずです。
最期の時間を、愛犬と一緒に、精一杯生きましょう。
※本記事をお読みになられる前に、愛犬のステージや病気の全体像を正しく理解しておくことも大切です。
⬇️ 【獣医師監修】犬の腎臓病の初期症状・ステージ別余命・最新治療の完全ガイド]
この記事の著者・監修者:Dr.サク(臨床10年以上)
現役の獣医師、都内動物病院に勤務。腎臓病を中心に、食事療法で数多くの犬の健康寿命を延ばしてきた実績を持つ。専門的な医学的知見に基づき、愛犬に本当に必要なフードを厳選しています。
覚悟しておくべき「末期症状」のリアルと対策──知ることで、パニックを防ぐ
まず、腎臓病の末期(ステージ4)で起こりうる症状を、正確に理解しましょう。知ることで、いざという時にパニックにならず、冷静に対処できます。
症状①:尿毒症の進行──眠る時間が増え、意識が遠のく
腎臓病の末期では、血液中に老廃物(尿素窒素、クレアチニンなど)が大量に蓄積します。これが「尿毒症」です。
尿毒症が進行すると:
- 眠る時間が増える:1日の大半を寝て過ごすようになる
- 名前を呼んでも反応が鈍い:意識が朦朧とする
- 食べない、飲まない:生きる欲求が薄れる
- 体温が下がる:手足が冷たくなる
【重要】これは「苦しみ」ではないことが多い
多くの飼い主さんが誤解しているのが、「意識が遠のく=苦しんでいる」という認識です。
しかし、医学的には、尿毒症による意識障害は、痛みや苦しみを感じにくい状態です。むしろ、深い眠りに入っていくような、穏やかな過程と言えます。
人間の腎不全患者さんも、「意識が遠のく時は、痛みもなく、楽だった」と証言しています。
症状②:痙攣・発作──起きた時の対処法
尿毒症が進行すると、尿毒症性脳症という状態になり、痙攣や発作を起こすことがあります。
痙攣の特徴:
- 突然体が硬直し、ガクガクと震える
- 白目をむく、よだれを垂らす
- 数秒~数分続き、その後ぐったりする
【対処法】触らない、見守る、座薬
痙攣が起きた時、多くの飼い主さんがパニックになり、「名前を呼ぶ」「抱きしめる」「水を飲ませる」などをしてしまいます。しかし、これは危険です。
正しい対処法:
- 触らない:痙攣中は触らず、見守る(噛まれる危険もある)
- 周囲の危険を除去:ぶつかりそうなものを遠ざける
- 時間を測る:何分続いたかを記録(5分以上続く場合は緊急)
- 座薬を使う(事前に獣医師から処方されている場合):肛門に座薬を挿入し、痙攣を止める
【知っておいてほしいこと】痙攣中、本人は意識がないことが多い
痙攣は見ている方が辛いですが、本人(犬)は意識がなく、痛みや苦しみを感じていないことがほとんどです。終わった後は疲れてぐったりしますが、これも一時的です。
症状③:呼吸の変化──最期の呼吸(下顎呼吸)について
最期が近づくと、呼吸が変化します。
通常の呼吸:
- 胸やお腹が上下に動く
- リズムが一定
最期の呼吸(下顎呼吸):
- 下顎だけが動く:口を大きく開けて、パクパクと呼吸する
- 呼吸のリズムが不規則:早くなったり、止まったりする
- 音が大きくなる:ゴロゴロ、ガーガーという音がする
【知っておいてほしいこと】下顎呼吸が始まると、数時間~数日以内に旅立つ
下顎呼吸は、体が酸素を取り込む最後の努力です。この段階に入ると、残された時間は長くありません。
ただし、これも「苦しみ」ではなく、体が自然に「終わり」に向かっているプロセスです。
「延命」か「緩和」か──後悔しない選択のために
ここで、最も難しい問いに向き合います。「どこまで治療を続けるべきか」という問いです。
積極的な点滴や入院をいつ止めるか──「引き算の医療」の考え方
末期になると、獣医師は「点滴を続けますか?」「入院させますか?」と尋ねます。
多くの飼い主さんが、「少しでも長く生きてほしい」と願い、積極的な治療を選びます。しかし、ここで考えてほしいことがあります。
点滴や入院は、本当に愛犬のためになっているのか?
末期の犬にとって、点滴は:
- 体がむくみ、呼吸が苦しくなることがある
- 針を刺される痛みやストレスがある
- 入院で、飼い主さんと離れる不安がある
もちろん、点滴で一時的に楽になることもあります。しかし、それが「延命」ではなく、「苦しみを長引かせている」だけなら、考え直す時期かもしれません。
これを、私たち獣医師は「引き算の医療」と呼びます。つまり、「何を足すか」ではなく、「何を引くか」を考える医療です。
自宅で過ごすことのメリット──飼い主の匂い、安心感
私が10年以上の臨床で感じているのは、多くの犬は、病院よりも自宅で旅立つ方が幸せだということです。
自宅で過ごすメリット:
- 飼い主の匂い:最も安心できる匂いに包まれる
- 慣れた場所:自分のベッド、いつもの部屋で過ごせる
- 家族と一緒:最期まで家族のそばにいられる
もちろん、病院での治療が必要な場合もあります。しかし、もし「もう治療の効果がない」と獣医師が判断したなら、自宅で穏やかに過ごすことを検討してください。
獣医師が答える最大の問い「安楽死は愛ですか?」
ここからは、最も辛く、最も重要な話をします。「安楽死」という選択についてです。
安楽死とは?
安楽死(安楽殺)は、苦痛から解放するために、薬剤を用いて穏やかに死なせる医療行為です。日本では、獣医師の判断と飼い主の同意のもと、合法的に行われています。
使用される薬剤:
- 麻酔薬(チオペンタールなど):深い眠りに入る
- 心停止薬:心臓を止める
過程:
- 麻酔薬を注射し、数秒~数十秒で深い眠りに入る
- 心停止薬を注射し、数秒で心臓が止まる
- 痛みや苦しみは一切ない
10年以上の経験から語る、安楽死の判断基準
私が安楽死を提案するのは、以下のような場合です:
- 治療の効果がなく、苦痛が強い:痛み、吐き気、呼吸困難などが薬で取り除けない
- QOL(生活の質)がゼロに近い:食べない、飲まない、動けない、意識がない
- 飼い主さんが「もう楽にしてあげたい」と決断した
逆に、私が安楽死を勧めないのは:
- まだ食欲があり、尻尾を振る
- 苦痛が薬で取り除けている
- 飼い主さんが「まだ諦めたくない」と思っている
【重要】選んでも、選ばなくても、それが愛犬を想って出した結論なら正解
安楽死を選んだ飼い主さんは、「私が殺してしまった」と自分を責めます。選ばなかった飼い主さんは、「もっと早く楽にしてあげるべきだった」と後悔します。
でも、私はこう思います。
どちらを選んでも、それが愛犬を想って出した結論なら、それが正解です。
安楽死を選ぶことは、「逃げ」でも「諦め」でもありません。それは、「これ以上苦しませたくない」という、究極の愛情表現です。
逆に、最期まで看取ることを選ぶことも、「最期まで一緒にいたい」という、かけがえのない愛情です。
どちらを選んでも、あなたは愛犬にとって最高の飼い主です。
最期の瞬間、飼い主ができる「たった一つのこと」
ここで、最も大切なことをお伝えします。
最期の瞬間、飼い主にできることは「泣くこと」ではなく、「名前を呼んで、撫でて、ありがとうと伝えること」です。
聴覚は最期まで残っている──医学的事実
人間の臨終医療でも言われることですが、聴覚は五感の中で最後まで残ると言われています。
つまり、意識が遠のいても、目が見えなくなっても、あなたの声は、最期まで愛犬に届いているのです。
私が目撃した「最高の看取り」
ここで、私が担当した柴犬のハチくん(仮名)の最期のお話をさせてください。
ハチくんは15歳で腎臓病(ステージ4)でした。自宅で最期を迎えることを選んだ飼い主さんは、ハチくんの好きだったベッドに寝かせ、そばに座っていました。
ハチくんの呼吸が弱くなった時、飼い主さんは泣きながらも、こう言いました。
「ハチ、15年間ありがとう。あなたは私の宝物だよ。もう頑張らなくていいからね。ゆっくり休んでね」
そして、頭を優しく撫でました。
その数分後、ハチくんは静かに息を引き取りました。飼い主さんの手の中で、穏やかに。
飼い主さんは後日、こう言いました。「泣きたかったけど、ハチに笑顔を見せたかった。最期まで、ありがとうって伝えられて良かった」
これが、私が見た中で、最も美しい看取りでした。
より深く知りたい方へ──noteで「心の準備」を
ここまで読んで、「もっと詳しく知りたい」「心の準備をしたい」と思った方もいるでしょう。
そんな方のために、私のnoteで「ブログでは書ききれない情報」を全て公開しています。
👉 Dr.サクのnote:第4章「末期のケアと、後悔しない最期の過ごし方」
このnoteでは:
- 安楽死の具体的なタイミング(どの症状が出たら考えるべきか)
- ペットロスを防ぐための心の準備(悲しみに押しつぶされないために)
- 在宅での緩和ケアの具体的方法(痛み止め、吐き気止めの使い方)
- 私が担当した子たちの「最期の日」のエピソード
を、診察室では言いにくい本音も含めて、全て書いています。
お守り代わりに持っておきたい方は、ぜひご覧ください。
私の診察室での実話:飼い主の腕の中で、笑顔で旅立ったゴールデンレトリバーの話
ここで、もう一つ、私が忘れられない看取りのお話をさせてください。
ゴールデンレトリバーのレオくん(仮名)は、14歳で腎臓病(ステージ4)でした。飼い主さんは、「病院ではなく、家で看取りたい」と決断しました。
レオくんの最期の日、私は往診で自宅を訪れました。レオくんは、リビングの大好きなソファに寝かされていました。呼吸は浅く、意識も朦朧としていましたが、飼い主さんが頭を撫でると、わずかに尻尾が動きました。
飼い主さんは、涙を流しながらも、笑顔で言いました。
「レオ、お前は最高の相棒だったよ。一緒に過ごした14年間、幸せだった。ありがとう」
そして、レオくんの大好きだったおやつの匂いを嗅がせました。レオくんは、ほんのわずかに鼻をヒクヒクさせました。
その1時間後、レオくんは飼い主さんの腕の中で、静かに息を引き取りました。
飼い主さんは後日、こう言いました。「レオは、最期まで幸せだったと思います。私も、後悔はありません」
これが、私が理想とする看取りです。
まとめ:愛犬は、あなたの笑顔を見るために生きてきました──最期も笑顔で見送ってあげましょう
ここまで長い文章をお読みいただき、本当にありがとうございます。
最後に、獣医師として、そして一人の犬好きとして、あなたにお伝えしたいことがあります。
愛犬は、あなたの笑顔を見るために生きてきました。
辛い時も、悲しい時も、いつもあなたのそばにいて、尻尾を振って励ましてくれた。あなたが笑うと、一緒に喜んでくれた。
だからこそ、最期も、泣き崩れる姿ではなく、笑顔で「ありがとう」と伝えてあげてほしいのです。
もちろん、悲しいのは当たり前です。涙が止まらないのも当たり前です。でも、その涙の中に、少しだけ「笑顔」を混ぜてあげてください。
「あなたと一緒に過ごせて、私は幸せだったよ」
その言葉が、愛犬にとって、最高のプレゼントです。
覚悟を決めることは、諦めることではありません。
それは、最期の時間を、精一杯愛情で満たすための、勇気ある一歩です。
今日、愛犬を抱きしめてあげてください。そして、「ありがとう」と伝えてあげてください。
あなたと愛犬の最期の時間が、愛情で満たされますように。
【あわせて読みたい】
👉 Dr.サクのnote:第4章「末期のケアと、後悔しない最期の過ごし方」
ブログでは書ききれない、安楽死の判断基準、ペットロスへの向き合い方、在宅緩和ケアの全てを公開。
👉 【獣医師が選ぶ】犬の腎臓病に本当に良いウェットフードランキング
まだ食べられるうちに、最高の食事をプレゼントしてあげてください。
【最期に】
この記事を書きながら、私は何度も涙を流しました。それは、私が担当した子たちの顔が、一頭一頭浮かんできたからです。
あなたが今、どれほど辛いか、私にはよく分かります。
でも、どうか忘れないでください。
あなたは、愛犬にとって、世界で一番大切な人です。
そして、あなたと過ごした時間が、愛犬にとって、最高の幸せでした。
最期まで、その愛情を注いであげてください。
あなたと愛犬に、穏やかな時間が訪れますように。
📚 参考文献・出典(獣医師監修)
本記事は、以下の国際的な腎臓病ガイドラインおよび研究論文に基づき執筆されています。
-
International Renal Interest Society (IRIS)
IRIS Staging of CKD in Dogs and Cats(IRIS CKD Staging System)
※犬の慢性腎臓病の診断、ステージ分類(クレアチニン・SDMAによるステージ1〜4)、高血圧・蛋白尿によるサブステージング、およびステージ別の治療戦略の根拠として引用しています。[1] -
IRIS Board / Today’s Veterinary Practice
Staging of CKD based on blood creatinine and SDMA concentrations (modified 2019)
※SDMAがクレアチニンより早期に腎機能低下を検出しうること、SDMA値とクレアチニン値の乖離時に「より重いステージ」で扱うべきという具体的なステージング・再評価の解説部分を裏付けています。[2] -
IRIS
IRIS Staging of CKD in Dogs and Cats – 2023 update
※2023年改訂における犬のCKDステージ別クレアチニン・SDMAカットオフ(例:SDMA >18 μg/dL でステージ2として扱うなど)に関する最新の基準を参照し、「SDMAが高いと言われた時の再検査・経過観察」の推奨に反映しています。[3] -
Pedrinelli V. et al.
Nutritional and laboratory parameters affect the survival of dogs with chronic kidney disease
※腎臓病用療法食(リン・タンパク制限など)を摂取した犬では、維持食と比べて尿毒症クライシス発症までの期間および生存期間が延長した、というエビデンスとして「腎臓病の犬の療法食・栄養管理が予後を改善しうる」という記述を裏付けています。[4] -
ACVN / Today’s Veterinary Practice
Nutritional Management of Chronic Kidney Disease
※CKDにおけるリン・タンパク質・オメガ3脂肪酸など「腎臓病の犬の手作りご飯とリン制限」に関連する栄養学的要点、およびタンパク制限食が糸球体構造障害や生存期間に与える影響についての説明部分の根拠としています。[5] -
American College of Veterinary Internal Medicine (ACVIM)
ACVIM consensus statement: Guidelines for the identification, evaluation, and management of systemic hypertension in dogs and cats (2018)
※CKDに合併する高血圧の診断基準、血圧測定方法、リスク分類、降圧薬開始のタイミングなど、「腎臓病と高血圧管理」「ステージ4の余命と緩和ケア」における血圧コントロールに関する記述を支える根拠としています。[6] -
Lees G. et al. / ACVIM
2004 ACVIM Forum Consensus Statement: Assessment and Management of Proteinuria in Dogs and Cats
※持続性蛋白尿がCKD犬の予後不良因子であること、UPC値に基づくACE阻害薬などの治療開始基準など、「蛋白尿の評価と治療」「尿検査の重要性」を解説する部分の科学的根拠としています。[7] -
日本獣医腎泌尿器学会誌
Hypertension and proteinuria in dogs and cats with chronic kidney disease
※日本語圏の臨床現場に即したCKD犬の高血圧・蛋白尿管理に関する知見として、降圧療法が蛋白尿を軽減しうることや、その限界に関する解説を補強する目的で引用しています。[8]


